初期から晩年まで、充実のマティス・コレクションへ|青野尚子の今週末見るべきアート
『マティス展』は世界最大規模のマティス・コレクションを誇るポンピドゥー・センターの全面的な協力のもと、開かれている回顧展。現在、よく知られているマティス独特の鮮やかな色彩に移行する前の初期作品から始まる。生まれ故郷のフランス北部や絵を学んだパリの陽光が南仏に比べると弱かったせいか、初期の作品は落ち着いた暗い色彩が目立つ。
転機になったのは1904年に印象派の画家、ポール・シニャックと南仏サン=トロペに滞在したことだった。《豪奢、静寂、逸楽》はシニャックらの点描による表現の影響が色濃く見られる作品。色彩が花火のように画面中に飛び散っているように見える。
1914年に勃発した第一次世界大戦では、マティスは出兵こそしなかったが、ほかの多くの人々と同様に不安な日々を過ごすことになった。窓の外が真っ黒に塗られたかのような《コリウールのフランス窓》は彼のそんな心情が反映されているかのようだ。
マティスは繰り返し窓を描いた。南仏で描いた《ニースの室内、シエスタ》の窓の外にはヤシの木のような、いかにも南国らしい風景が描かれている。暖かい風が吹き込んでくるのが見えるようだ。