リケジョ育成、「数学が苦手」固定観念打破が課題
■OECDで最下位
「無意識の思い込みや固定的性別役割分担意識をなくしていくような教育の重要性が会合で指摘された」
共同宣言採択後、記者会見に臨んだ小倉将信担当相は会合をこう語った。
経済協力開発機構(OECD)の調査(2019年)によると、大学など高等教育機関の入学者に占める女性比率は各国とも低迷している。日本は工学系で16%と加盟国の平均(26%)を大きく下回り、比較可能な国のなかで最下位だ。しかし、わずかながら変化の兆しもうかがえる。
この春の大学入試について、大手予備校の河合塾がまとめた学部別志願状況の女子比率をみると、国公立大の理学部は26%、工学部は17%でともに前年比1ポイント増。私立大はそれぞれ32%、19%で同2ポイント増えた。
河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員は「かつては女子生徒が理系への進学を望んでも、親が文系に進路を改めさせるケースもあった。一方、現在の受験生の親には、比較的自由な進学経験を持つ4年制大学の卒業生が増えたため、子供の希望を尊重するようになった」と説明する。
■女子は数学が苦手?
国公立大工学部の女子比率を詳しく見ると、生物工学・生命工学39%、建築学30%、応用化学28%などは比較的高い。対して、機械・航空は8%、電気・電子は7%しかなく、「工学部全体の女子比率を引き下げる構図」(近藤氏)。これらは入試科目に数学や物理が必須とされる分野だ。
「高校で物理を選択しない女子生徒が圧倒的に多いため、工学部の機械や電気といった分野は進路決定の当初から枠外に追いやられてしまっている」。東京大の横山広美教授(科学技術社会論)はこう語った上で、「中学校で女子の物理離れが起きる傾向がうかがえる。工学部の女子比率を高めるには、中学校での指導を見直さなければならない」と指摘する。
■「女子枠」に課題も
背景はさらに複合的だ。横山教授によると、日本社会には、女性は数学ができないという「数学ステレオタイプ」と呼ばれる固定観念が根強い。しかし、OECDの国際学習到達度調査(PISA、18年実施)で、高1女子の数学的応用力は522点。数学ステレオタイプにさらされてなお、男子(532点)と10点の差しか開いていない。
「工学部卒業後の就職イメージを伝えられていないことも大きい」。こう話す横山教授らの研究チームが中1の男女に「就職の有利さ」「平等社会の重要さ」「女子も数学が得意だ」などの情報を伝えると女子の理系進学意欲が高まった。
大学も変わる。昨年度は奈良女子大が女子大で初めて工学部を設置。来年度はお茶の水女子大に共創工学部(仮称)が新設される。入試に「女子枠」を設ける大学も急増している。
ただ、推薦型入試が多い女子枠では、筆記試験から物理を外すことができる大学もある。横山教授は「入試の負担を軽くすれば、女子比率は上がるだろうが、それで活躍できる人材を育成できるかは疑問が残る。数学や物理を勉強してほしいという本来のメッセージと逆に受け取られないよう注意が必要だ」と話した。(玉崎栄次)