生成AI すでに教育活用模索も教師力に格差…慎重姿勢も
ICTの積極活用で知られる東京学芸大附属小金井小(東京都小金井市)では今年3月、道徳の授業で生成AIを取り入れた。友達から郵便料金不足の葉書が届き、友達に不足を伝えるべきか悩むという話をもとに、自分の意見と生成AIの回答を比べた。
また茨城県つくば市では、市内の全小中・義務教育学校で生成AIを順次授業で活用していく。小学5年~中学3年が対象で、6月に行われた市のモデル校の6年を対象にした授業では、市の特徴などを生成AIに質問し、その内容を検討した。市の担当者は「子供がメリットもデメリットも理解した上で、活用できそうなことを考える時間を確保したい」としている。
都内の私立高で情報の授業を担当する50代の男性教師は、子供自身が想定した質問と回答を生成AIの回答と比べることで、「理解を深めるきっかけになる」とみている。この男性教師は「インターネット同様、生成AIも手軽に使える環境になった以上、子供の日常と切り離すことはできない」と話す。
一方、都内の公立小に勤務する女性教師(39)は「活用の話がにわかに取り上げられた印象があるため、戸惑っているのが多くの教師の本音ではないか」と指摘。「生成AIがなくても十分な指導ができているので、授業研究の知見が集まった段階で指導上の効果を見極めて使うかどうかを判断したい」と慎重だ。
文科省の担当者は「指針に沿った授業ができる教師はごく一部」との認識を示す。利用規約などを順守すれば、年齢制限や保護者の同意(チャットGPTなら利用は13歳以上、18歳未満は保護者の同意が必要)といったハードルがあるため、教育活用は当面かなり限定される可能性が高い。
ただ、東京大が「可能性を積極的に探る」との方針を示すなど、大学の授業や研究では生成AIが浸透しつつある。大学や社会に出たときのスムーズな対応を考えれば、小中高校生が段階的に生成AIの基本的な知識や活用法を身に付けることは不可欠になりつつある。
指針は順次、改定する方針としているなど、スピード感を優先した結果、準備不足は否めない。生成AIの教育活用を巡る環境整備が急がれる中、文科省は教師向けの研修や保護者向けの啓発資料などを開発し、全国の教育委員会などと共有する方針という。
◆生成AIに詳しい京都大学の金丸敏幸准教授の話
「全体的に踏み込んだ内容になった。長所や短所を指摘した上で、AIの前向きな活用に舵を切っている。チャットGPTが世の中に出て1年も経過していない中でガイドラインを出したことは異例だろう。活用する場合に教師が気を付けなればならない点を指摘した上で、積極的に教育に導入しようと事例を挙げている。英会話の相手としての活用や自然な英語表現を学ぶ手段として例示するなど、現場の参考になる事例が多く含まれている。子供がAIを活用して自ら学ぶ提案がなされているのが特徴だ。AIの特性などに関して各教師が説明することがバラバラでは子供たちが混乱してしまうので、教育委員会や学校単位で早期に教師向けのガイダンスを行う必要があり、教師がAIを学ぶ機会をどう確保するかが課題となる。ICTを活用した授業の先進例をいくつも見てきたが、アナログ時代に比べて違う次元の教育が可能になっている。AI導入で教育の質が開かないよう、国や教育委員会は優れた事例を情報提供するなどのサポートを行うべきだ。教育での活用には保護者の理解が必須で、保護者にもAIを学ぶ姿勢が求められている」