岡本太郎の「最後のピース」 パリ留学中に描いた油彩画3枚発見
岡本は1930年、絵画を学ぶためフランスに渡り、20代の約10年間をパリで過ごしている。3枚はその時に描かれたものとみられる。90年代前半に、パリのあるアトリエで見つかった3枚の絵を仏人男性が入手。男性はカンバス側面に記された署名から「岡本の作品ではないか」と川崎市岡本太郎美術館などとやり取りしていた。今年、岡本太郎の回顧展が日本国内で開かれるのを機に、作品を移送し、岡本太郎記念現代芸術振興財団が調査していた。
いずれも抽象画で、ひらひらした帯のようなものが描かれている。署名を筆跡鑑定した結果、8~9割の確度で岡本のものと一致した。また、絵の具の成分は3枚とも同一のものである可能性が高いことが判明。33年に岡本が制作開始した「空間」という抽象画と似ていることから、それ以前に描いた習作とみられる。
岡本は、ドイツのフランス侵攻を受けて40年に帰国したが、その際に持ち帰った作品はすべて空襲によって焼失した。会見した記念館の平野暁臣館長は「若き日の太郎が己の表現を確立しようと格闘していた頃の記録だ。一番の根っこの部分が見つかった」と喜んだ。調査に関わり、会見に同席した美術史家で明治学院大の山下裕二教授は「完成度は高くないが、迷いながらも自分の表現を追求する悩める若き太郎の姿が見える」と指摘。同じく岡本作品を多数、修復してきた絵画修復家の吉村絵美留さんは「岡本は作品を何度も描き直しするが、この頃にも同じような修復の跡が見られる」と語った。3枚は23日から大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれる「岡本太郎」展で公開される。【平林由梨】