『「遍路なんか回っても、何も変わらんぞッ」…酒乱の元極道が見抜いた「真理」』への皆さんの反応まとめ
四国にある88ヵ所の寺院を巡る「遍路」。徒歩で参拝すると約40日かかるとも言われるその旅の途上では、様々な出会いが待ち受けている。ノンフィクション作家の上原善広氏の新刊『四国辺土』から、旅路でめぐり逢ったある男性について、一部編集のうえで紹介しよう。
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【写真】警視庁23歳の美人巡査がヤクザに惚れてすべてを失うまで元極道の自宅に泊めてもらったPhoto by iStock その夜は、またべつの親切なおじいさんに誘われて、自宅に泊めさせてもらうことになった。一人住まいなので時々、気が乗った時だけ遍路に声をかけて泊めるのだという。
小さなアパートに住んでいたが、中は案外広くて、別室をあてがってくれた。私は近くの商店で買ってきた弁当を広げ、ビールなどの酒を出しておじいさんにも勧めた。「酒はもう止めたんやが」と、後で思うと意味ありげに言いながら、おじいさんはカップ酒をすするようにして飲み始めた。
四方山話をしていると、今は僧侶の免状をもっていて、一応は僧侶をやっているという。以前までは大阪に住んでいたという。
「仕事は何をやっていたんですか」
何気なくそう訊ねると、おじいさんはカップ酒に顔を赤らめ、少し間をおいてからこう呟いた。
「……こういう話はあんまりせんのやが、あんたを男と見込んでいうが、大阪では極道やっとったんじゃ」
そう言うと、おじいさんはそれまで巧妙に隠していた左手の小指を私にちょっと見せて、また隠した。小指は第二関節から先がなかった。私はまったく気が付いていなかったので驚いた。
「そうでしたか。つい先日も、元極道の若いお遍路に会ったばかりだったので驚きました」
「そうか、遍路の中にもそういう奴は沢山おる。悪いことばっかりしてきたような奴が……」
「出身はこの辺りなんですね」
「そう。実家は漁師やってた。ワシは25歳まで、地元で車の整備工やっとったんやが、親父と喧嘩して飛び出してもうての。大阪の平野で極道になったんじゃ」
「極道というのは、どうやって食べているんですか」
「いろいろあるけど、たとえばオヤジ(組長)にこれで遊んで来いと言われて50万もらったら、パチンコ屋に行く。パチンコ屋もグルで、大箱を毎回出してくれるが、それは置いといて、わざと負けた振りする。それでわざと札束を出して客に見えるように数えてると、パチンコで負けた女がすり寄ってくるんだ。
一緒に飯でも食べようと誘ってくるが、忙しいからと断ると、1万貸してほしいと必ず言ってくる。それで貸してやると、次もまた返さずに借りにくる。そこでしっかりハメて、肉体関係をもつんじゃ。女もよくわかっとる。大抵はよう返さんから、ソープに沈めるなりして金にして、オヤジに50万だけ返すんじゃ」
「つまりギャンブル依存症の女性を狙うんですか」
「そうよ。その他にもまだいろいろある。あるときはフィリピンの女を三人ばかりワンルームで管理したりな。やりたいときはトイレでやるからセックスには困らん。1人1日6000円は稼ぐから、3人で1万8000円。オヤジに8000円渡すから、ワシは1万の儲け。とっかえひっかえ女とセックスして、何もしなくても1日1万は入ってくるというわけじゃ」
しかし、そのような金が身に付かないであろうことは、老人の今の生活を見ていてもわかると思った。次ページは:「おまんも極道しとったんかッ」前へ123次へ1/3ページ