幻のピアノ「スタインベルク」が九州にあった…個人保管の国内5台目、滝廉太郎ゆかりの地へ
スタインベルク社は1908年にベルリンで創立。就実大の元非常勤講師・安倉清博さん(51)によると、高い技術力を誇り、巨匠・フルトベングラーが指揮をしていた時期のベルリン・フィルハーモニーにピアノを納入した記録が残る。戦争の影響で40年に会社はなくなっており、国内で確認されていたグランドピアノは4台だけで、今回が5台目となる。うち3台は、昭和天皇御大典(1928年)を記念して購入されたものという。
譜面台には木組みの模様があしらわれ、フレームが厚く、重厚感がある作りが特徴。調律を行っているムジカシラサワ(大分市)の担当者は「鍵盤が重く、現代のピアノとは違った独特の音がする」と話す。
寄贈するのは、2015~18年に竹田市の地域おこし協力隊を務めた映像作家の尾登憲治さん(73)(大分市)。兄が約50年前に中古で購入したピアノで、大分市の実家で保管していたという。実家を処分することになり、兄から「貴重なピアノだ」と聞いていたため、引き取り手を探した。
親交のあった前竹田市長の首藤勝次さん(69)に相談し、首藤さんが理事長を務める一般社団法人への寄贈が決まった。竹田市は作曲家・滝廉太郎が少年時代を過ごした地で、首藤さんは「滝先生が留学されたドイツで、ほとんど時を同じくして誕生した名器が、竹田に舞い降りてくることにドラマを感じる」と語る。
ピアノは、地元のオーケストラが拠点とする同市竹田町の交流施設に設置し、自由に市民が弾ける「ストリートピアノ」として活用したり、ピアノ教室を開いたりすることを検討している。
20日にお披露目のコンサートを予定しており、尾登さんは「このピアノから新しいストーリーが生まれるとうれしい」と話している。(瀬戸聡仁)