<今月見るべきアート展>ヘザウィック・スタジオに学ぶ幸福なデザインのかたち
いま、世界でもっとも注目を集めるロンドンのデザインスタジオのひとつ「ヘザウィック・スタジオ」。その創設者トーマス・ヘザウィックについて、デザイン界の巨匠テレンス・コンラン卿が「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と評したのは、よくわかる。
シンプルな箱型の建物から飛び出た約6万本の細いアクリルのポールが、風に合わせてゆらゆらとたわむ、上海万博の「英国館」(2010年)、204の国と地域それぞれの名が刻まれた花びら型のパーツが、最終的に合ひとつに合わさり、大きな聖火になる「ロンドン・オリンピック聖火台」(2012年)、ニューヨーク・ハドソン川の水上に建設された公園「リトル・アイランド」(2021年)ーー彼らの手がけたプロジェクトは、ユニークかつ革新的であり、なにより見る人をワクワクさせる力がある。日本でも彼らがデザインした「麻布台ヒルズ」の低層部が今秋に竣工予定だ。
六本木ヒルズ森タワー52階、東京シティビューで開催中の『ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築』は、ヘザウィック・スタジオが手がけた28の主要なプロジェクトを紹介する日本初の展覧会。スケッチや建築模型、写真、インタビュービデオ、また素材やパーツの開発段階につくられた試作品などの展示物を通して、その仕事術、そして創造哲学に迫る。
高度な濾過技術を備え、走行中に有害な粒子状の物質を除去し街中の空気をクリーンにする電気自動車《エアロ》(2021)、変形するテーブル《拡張する家具》(2014~)、足のない椅子《スパン》(2007~)などの実物も紹介。会場デザインはヘザウィック・スタジオが担当した。
展示品からは、それぞれプロジェクトにおける彼らのデザイン的思考の痕跡が読み取れるだろう。たとえば、細部(ディテール)が、その全体(コンセプト)にいかに影響を与えるか。あるいはディテールがいかにコンセプトの説得力を増幅させるか。限られた予算のなかで効率性をどう最大限に発揮させるか。デザイン、サイエンス、エンジニアリング、アートの領域を横断しながら、どのようにしてイノベーションを起こすものづくりが可能になるか――だた、そうしたロジカルな視点に加え、「エモーション(感情)」という言葉を念頭に置いて観賞すると、より彼らのデザインの本質が見えてくる。