又吉直樹が選んだ、ドラマになる名作椅子とは?
オリジナルドラマの制作に力を入れるWOWOWが、無類の椅子好きで知られる又吉直樹に依頼したのは「椅子」と「女性」を題材としたオムニバスの物語。それぞれの椅子が持つ魅力を織り込んだ物語は、各話ごとに独特の世界観を持ち、得も言われぬ感情を引き出す。不思議な余韻とともに何度も見返したくなる物語を、又吉さんはどう紡いだのだろう。
Q 今回のドラマはどのように生まれたのでしょう。
4名の女優とともに椅子の物語を作ってほしいという依頼から始まりました。なにか突飛な題材であれば8本の物語は難しかったでしょう。けれど椅子は日常に密接するもので種類も豊富です。形や使われ方に限らず、多様な側面を持つ家具なので物語に向いていると考えました。今回はあくまでまず椅子があり、そこから物語を考えていったんです。
Q 椅子をどう選びましたか?
資料をもとに、当初は50脚以上の椅子を候補に挙げました。そこから物語を考えつつ20脚ほどに絞り、家具店などを回りながら8脚まで絞り込んだのです。
Q スタンダードな椅子が多いなか、チャールズ&レイ・イームズの《ラ シェーズ》は独特な一脚です。なぜこれを選びましたか。
アルテックの《スツール 60》を見に行ったことがきっかけです。そこにチャールズ&レイ・イームズがデザインしたヴィトラの《ラ シェーズ》もあると聞き、見せていただきました。人間が座るという機能を持つ椅子は、だいたい同じような大きさです。けれど《ラ シェーズ》は他にない大きさでインパクトもありますし、デザインも独特。これで物語を書くのは難しそうだなと思いつつ、入れてみたくなりました。どこに置くのがいいかなと考えるうちに、海のシーンが浮かびました。
Q 《ラ シェーズ》は非常に象徴的な形で、物語に椅子が美しく機能しています。ビジュアル的なイメージから物語を構築することが多かったのでしょうか。
実際に椅子を見たり座ったりして、そこから得た印象から物語が生まれました。どれもいい椅子なので、あえて逆の印象で使うことも考えましたが、やはり椅子をかっこよく見せたいという基本を大切にしようと決めました。だからこそ人物の行動は、椅子と対比的に変わった表現なのかもしれません。物語の主軸が人間と椅子の関係性ということは間違いないですね。あとは人の中にあるどこか滑稽な部分であり、悲しみを描きたかったのです。いずれの話もどちらかの要素が含まれています。そしてできるだけ変わった物語を作りたいという目標があったので、あまりわかりやすくないものを目指しました。ただ複雑だったり難解だったりするものは、あまりみなに好かれない。そういう複雑さを簡略化させずに、けれどみなが楽しめるものを考えたつもりです。8本すべてでそれが実現できたかはわかりませんが、誰も理解ができない物語ではないと思います。