【岡山・津山】骨付きの牛肉を“そずる”そずり鍋|冷水希三子の郷土料理研究レシピ
岡山県・津山市は「牛肉王国」だ。ということを知っている人はどのくらいいるだろうか。
歴史をひもとくと、官牧(律令制で規定された国有の牧場)の全国設置は文武天皇時代にはじまった。その地に選ばれた津山は慶雲2(705)年に牛馬市場を開市。19世紀中頃には津山を含む美作が西の牛の供給の中心地となっていた。仏教の影響で一般人に肉食を嫌悪する風習が定着する中、特例として“養生食い”(滋養強壮のために肉を食べる習慣)が定着していた津山。こうして独特の肉文化が途絶えることなく引き継がれていったのだという。
B級グルメの大会でも常連の「津山ホルモンうどん」、牛もも肉を塩漬け、乾燥させて保存性を高めた「干し肉」、牛の大動脈部分を食べる「ヨメナカセ」……。数々の肉文化が残る中、今回冷水さんが注目したのは「そずり鍋」だ。
今回、牛肉文化について教えてくれたのは、津山市で古くから大衆割烹を営む〈お染〉の森山さん。昭和50年代からこの「そずり鍋」を出しはじめたという。なじみの肉屋さんに「そずり肉で鍋を作るとおいしい」と教えてもらったのがきっかけだ。
「骨から肉をそずる(削る)のがそずり肉ですが、うちが使うのは国産牛のあばら骨からそずった『本そずり』と呼ばれる部分。一頭から2kgしかとれない希少な肉です」(森山さん)
そずり鍋の作り方は、いたってシンプル。かつおと昆布の出汁を酒と醤油で整え、そずり肉、ごぼう、にらを入れる。季節によっては水菜やチシャ菜が入ることも。まず冷水さんが驚いたのは、出てくるアクの少なさだった。
「骨の周りの部位だから、絶えずアクをすくっていなきゃいけないかと思いました。お出汁が全然濁らないんですね。ずっときれいなまま」