【書評】人類史上最悪の「独ソ戦」を戦った女性だけの狙撃隊:逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』
ロシアのウクライナ侵攻が世界に衝撃を与える中、第二次世界大戦でナチスドイツとソ連が戦い、3000万人を超える死者を出した人類史上最悪の戦争「独ソ戦」をテーマにした本書が注目されている。これまで語られることのなかった女性だけの狙撃隊がたどった苛酷な運命を通し、戦争の“悪魔性”やロシアとウクライナの複雑な関係が描かれている。36歳の新人作家によるこの長編小説は「2022年本屋大賞」に選ばれた。
ウクライナ侵略を進めるロシアのプーチン大統領は、5月9日の対ナチスドイツ戦勝記念日に、大きな決定を表明すると言われる。なぜ、プーチン大統領はそれにこだわるのか。本書の最後の方に、こういう文章がある。
「おびただしい人命を失いながら、防衛戦争として強大なドイツ軍を迎え撃ち、ついには人類の敵、ナチ・ドイツを粉砕したという事実は、ほとんど唯一といっていいほどにソ連国民が共有することのできる、輝かしく心地よい物語として強化されていった」
プーチン大統領は欧米の支持を受けた今のウクライナを、ロシア嫌いのナチスに例えて、戦争を正当化するのだろうか。
「独ソ戦」の実態を女性の視線から描いた本書は、ドイツにソ連侵攻が始まった翌年(1942年)の2月、モスクワ近郊の農村に突如、ドイツ軍が現れるところから始まる。モスクワの大学への入学が決まり、ドイツ語を学んで、独ソ両国が仲良くなるよう外交官を目指していた16歳の少女、セラフィマの運命は一変する。母も、村人も皆殺しとなり、友人は乱暴された姿で死んでいた。
一人生き残ったセラフィマは、ドイツ兵に射殺される寸前に赤軍の女性兵士に救われる。女性兵はセラフィマに問う。「戦いたいか、死にたいか」。「この戦争では結局のところ、戦う者と死ぬ者しかないのさ」。そして、女性兵士は母の遺体を焼いてしまう。
母が猟師で、自分も狩りの名手だったセラフィマは、こう叫ぶ。「ドイツ軍も、あんたも殺す! 敵を皆殺しにして、敵(かたき)を討つ!」
この女性兵士は狙撃兵で、セラフィマはこの女性兵が教官長の狙撃訓練学校に入り、腕を磨いていく。この訓練校には、セラフィマのように戦争で家族を失った少女らが集められていた。