【書評】経済、社会保障からテクノロジーまで…元大蔵官僚・経済学者による未来予想 『2040年の日本』(野口悠紀雄 著・幻冬舎)
さて、今回案内する『2040年の日本』(幻冬舎)の著者である野口悠紀雄氏は、このケインズによく似た経歴の持ち主だ。
野口氏は元大蔵官僚。東大工学部で応用物理を学び、さらに大学院で半導体などの研究を続けていたが、独学で経済学を学び国家公務員上級職試験の経済職で2位合格を果たした。ケインズと同じく理系から文系に転向してきた人で、公務員試験2位合格まで同じである。
ただ、官僚として大蔵省に勤めていた期間はそれほど長くなく、出向の形でさまざまな大学で教鞭をとり、東京大学先端経済工学研究センター長を最後に、大蔵省を退官している。
この人が一躍有名になったのは『「超」整理法』、『「超」勉強法』といった「超」が頭に付く一連のベストセラーだ。半導体研究の傍ら経済学を独習して国家試験を2位で合格した経験が、こういったハウツーものに活かされているともいえる。
もちろん学術的な書籍も数多く、『1940年体制―さらば戦時経済』(東洋経済新報社)では、戦時体制の経済が戦後も生き残り、それが日本の高度経済成長に有効に働いたとする考えを示している。
たしかに戦時経済は統制色が強い。戦後の焼け野原から高度経済成長を達成するためには、乏しい資源を無駄なく使う規制色の強い経済計画が必要だった。しかし一定の経済成長を果たすと、そこから先に進むために1940年体制からの脱却、いいかえれば経済の自由化に軸足を移す構造改革が必要だとした。時代の潮流を見据えた、これもまた優れた先見の明であった。
さて1940年を起点とした経済史の考察の次は、今回の2040年の未来予想である。
著者は「10年後や20年後を考えると言うと、『明日のことさえ定かでないのに、そんなに遠い将来のことが分かるはずはない』と考える人がいるかもしれない」とした上で、「しかし、10年後、20年後という期間を考えれば、ランダムな変動は平均化され、長期的な趨勢だけが残る。その中には、かなり確実に予測できるものもある。その意味では、長期予測のほうが短期予測よりも確実な側面もある」としている。
第一章は各機関が発表している日本の今後の経済成長率を俎上にあげている。いずれの成長率を採用するかによって、10年後が大きく変わってくるのは当然のことである。概して政府系機関より民間のシンクタンクの成長率予想は低い。そして野口氏も高成長率には悲観的で、高成長率を前提にした政府の施策に強く警鐘を鳴らしている。
「日本の政策体系全体が、2%実質成長という虚構の土台の上に立っている。虚構は実現しないのだから、日本の政策は、将来に向かって維持することができないことになる。それは、未来に対する責任放棄以外の何ものでもない」