ダーウィンが解き明かした生命の「なぜ」(why)を美しい科学絵本の中で追体験
現代人は「進化論」が大好きだ。「イチローはまた進化した」といった言い方、あるいは「生き馬の目を抜くスマホ業界の生存戦略」とか「結局能力のない奴は自然淘汰されるのさ」などなど。みんなが好んで使うこれらの用語は、どれもダーウィンの進化論に出てくる重要なキーワードたちである。
「でも、みんな何となく知ってはいるけれど、ちゃんとダーウィンの進化論を読んだことのある人ってほとんどいませんね」と言うのは、この科学絵本『種の起源 はじめての進化論』(岩波書店)を翻訳した生物学者の福岡伸一さんだ。
「私は子どもの頃から虫が大好きで、美しいカラスアゲハや青いカミキリムシに夢中になりました。虫好きが高じて生物学の道に進みましたが、生物学は『いかにして(how)』の疑問にはある程度答えることができても、『なぜ(why)』の疑問にはなかなか答えられません。チャールズ・ダーウィンは、その『なぜ』を説明することを可能にした生物学の革命者です。この本でぜひ、生物学最大の理論が成立した背景を追体験してみてください」(福岡さん)
地球上には、なぜ、こんなに多様な姿形と生活形態を持つ生き物が満ちあふれているのか――。福岡少年がその不思議さに魅入られたように、ダーウィンも100年以上前に生命の成り立ちに深い関心を持ち、長い時間をかけて研究を重ね、生命の「なぜ」を解き明かしてみせた。『種の起源』はその集大成である。
このダーウィンの名高い本を美しい絵と分かりやすい解説で本にしたのが、英国ロンドンを拠点に活動するサビーナ・ラデヴァ(Sabina Radeva)さん。彼女の経歴がまた面白い。もともとドイツで生物学の研究をしていたのが、科学の世界を離れ、芸術家への転向を志した。この絵本は彼女の最初の作品である。
サビーナさんがもと生物学者であったことは、本書を読めば誰もが納得するに違いない。どのページに出てくる蝶も鳥も動物たちも、美しく愛らしくファンタジックなのに、子どもだましのウソがない。科学者の視線がそこにはある。福岡さんいわく、「彼女はナチュラリストです」。ナチュラリストとは、自然を研究し、理解しようとする人のことだが、福岡さんの表現を借りれば「生命を愛でる人」ということになる。絵本にあふれる、生き物たちが見せる奇跡のような形や色彩。彼女の生命への真摯な眼差しがあたたかく伝わってくる。