芥川賞・高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』はどんな作品?身近な人間関係の難しさ描く
日本文学振興会が主催し、同日に発表される『直木三十五賞(以下、直木賞)』とともに毎回話題となる『芥川賞』だが、そもそもどんな特徴を持つ文学賞なのか? 『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)、『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)などの著者として知られ、過去の受賞作をすべて読んだ菊池良氏が解説する。
第167回『芥川賞』が高瀬隼子(たかせ・じゅんこ)さんの『おいしいごはんが食べられますように』に決まりました。
今回は候補作の作者がすべて女性ということも話題になりました。約90年近い歴史がある『芥川賞』のなかで、これは初めてのことです。また、候補作5作のうち4作の作者が初候補。そのうち2作が、文芸誌の主催する公募新人賞の受賞作という回でもありました。
『芥川賞』は文豪・菊池寛が創設した、純文学を対象とする文学賞です。1935年からはじまり、途中で数年の中断をはさんでいますが、約90年近い歴史があります。
純文学の定義は難しいですが、純粋な芸術性を目的に書かれた小説作品を指します。『芥川賞』と同日に発表される『直木賞』はエンターテインメント作品が対象です。
『芥川賞』は毎年、上半期と下半期の2回行われます。上半期は12月~5月、下半期は6月~11月、その半年間のうちに雑誌掲載された新進作家の中短編作品のなかから候補作が選ばれます。候補作が発表されるとその翌月に選考会が行われ、選考委員の議論を経て受賞作が決まります。
特徴的なのは選考委員の全員が実作者で、評論家はいないことです。実作を繰り返してきた作家が、その審美眼で受賞作を選びます。
受賞作が発表されると、その日のうちに作者の記者会見が開かれ、その日の夜や翌日のニュースで放映されます。書店でも『芥川賞』の受賞作としてプッシュされ、作品はたちまちベストセラーになります。
さきほども書いたとおり、候補の対象は半年間のうちに発表された新進作家の作品で、今回でも候補にあがったとおり、公募新人賞を受賞したデビュー作も候補の対象になります。
つまり、デビューしたばかりの作家がわずか数か月で時代の寵児になる可能性があり得る賞という側面もあります。
余談ですが、今回は受賞作を発表する前の時点で、すべての候補作が単行本化、電子書籍化されていました。『芥川賞』は雑誌掲載された作品が候補の対象なので、まだ単行本化されていない作品が候補作の多くを占めます。発表日のあとに単行本化、電子書籍化ということも珍しくありません(前回受賞した砂川文次さんの『ブラックボックス』も発表日のあとに発売です)。
今回のように、受賞作の発表より前に単行本化する傾向が今後もつづけば、興味を持った人がすぐに書店で単行本を購入でき、『芥川賞』はますます盛り上がることでしょう。