「盤は光らない」藤井竜王から心に残る言葉引き出した“持ってる”観戦記者
大橋貴洸六段 は 藤井聡太竜王 とプロ入りが同期で、目下、竜王に公式戦4連勝中の“藤井キラー”。対する 伊藤匠五段 は藤井竜王と同学年の19歳で、昨年度はなんと勝率1位! 藤井竜王の「デビュー以来5年連続勝率1位」を阻んだ若手の実力者だ。本戦開幕前に藤井竜王も、この2回戦を勝ち抜いた棋士が、ランキング戦1組優勝の 永瀬拓矢王座 に続き、挑戦者争いの“対抗的存在”になると予想していた。
そんな大一番。どちらが勝つかワクワクしながら、読売新聞オンラインの棋譜速報と写真特集を眺めていると、思わず、「おっ」と声を上げてしまった。両棋士が 対峙(たいじ)する写真の奥に藤井奈々女流初段の姿を見つけたからだ。
彼女が竜王戦の観戦記者を担当するようになってから、もう2年半になる。現在は24歳で、当時も今も執筆陣の中で最年少。2年前にこの コラム で“持ってる新人観戦記者”だと紹介させていただいた。
“持ってる記者”とは私たちの業界で、大きなニュースやドラマによく遭遇する記者という意だが、この藤井女流初段、その後に担当した観戦記を読むと、改めてその持ってるぶりが半端ない。
今期の竜王戦でも、棋士人生56年の 桐山清澄九段の引退が決まった伊奈祐介七段との対局 を観戦記者としてすぐそばで見届けた。
新聞解説役を務めたのは桐山九段の弟子の豊島将之九段である。竜王戦では七番勝負以外の新聞解説役は、基本、観戦記者が選ぶ。藤井女流初段は文化部将棋担当のY記者を通じ、「ダメ元」で、豊島九段に解説をお願いしたという。
かくして計7回の連載は棋士・桐山清澄のはかりしれない度量の大きさと優しさ、そして師弟の強い絆と愛情に満ちたものとなった。特に対局に敗れた桐山九段が関西将棋会館を去る場面は……。詳細は、読売新聞オンラインの竜王戦観戦記コーナーに譲るが、何度、読み返しても心がじーんと温かくなる観戦記だ。将棋ファンの方々にはぜひ、ご一読いただきたいと思う。