“未来を夢見た建築” ブルータリズムを巡る。
磯が選んだ9件は、ジャンルも場所も様々。そして、丹下健三や菊竹清訓といった有名建築家の作品は1つも載っていない。
「有名な賞を取ったりしていない建築にも、面白いものはたくさんある。そうした作品は知らないうちに解体されたりするので、今のうちに紹介したいと思ったんです」
その言葉通り、組織設計事務所や、行政機関にいた設計者が手がけたものなど、一般的な書籍は見落としてしまいそうなセレクトだ。ジャンルも庁舎や学生会館など、どの町にもある建物ばかり。
「身近にある建築の良さを知ってほしい。自分が生まれ育った町にある市役所や文化会館って格好よかったんじゃないかと、目を向けてほしいんです」
今では解体の危機に瀕する建物も少なくないブルータリズム。なぜこの時代にのみ、こうした先進的な作風が可能だったのだろうか。
「建築家と行政、そして市民が一緒になって夢を見て、同じ未来を共有できていたんだと思います。そこには、戦後民主主義といった思想も反映されている。例えばピロティは、ここに人々が集って議論が生まれるようにと意図して作られたものだったりします」
有名なものでは丹下健三の〈旧香川県立体育館〉の解体が正式に表明されるなど、当時から50年以上経過し次々となくなりつつあるブルータリズム。書籍では、ブルターリズム建築が保存・継承された好例も紹介している。この1冊をきっかけに、自分の身近にある、そして日本各地に残るブルータリズムを知る旅に出てみたい。
1960~70年代の日本各地のブルータリズム建築から、厳選した9件を収録。〈窓研究所〉の助成を受け出版された。144ページ。著者:磯達雄。写真:山田新治郎。トゥーヴァージンズ/6,600円。