中﨑透がみんなの記憶と一緒に作る、ぼやっとした歴史の総体とは?|青野尚子の今週末見るべきアート
『越後妻有 大地の芸術祭』など各地の芸術祭でも人気の中﨑透。水戸で産声をあげ、高校卒業までの大半を水戸で過ごした。東京の大学・大学院で美術を学び、2007年からは水戸に戻り、今もそこを拠点にしている。〈水戸芸術館〉には観客としてだけでなく、アーティストとしても関わってきた。水戸市内では他にも〈水戸のキワマリ荘〉でオルタナティブ・スペース〈遊戯室(中﨑透+遠藤水城)〉を設立するなど、キュレーター的な活動もしている。
今回の個展は、一言で言ってしまえば彼の代表作を網羅した回顧展だ。が、ことはそう単純ではない。会場の壁にはあちこちにテキストが掲げられている。これは、水戸をモチーフにした中﨑の新作《フィクション・トラベラー》だ。水戸や〈水戸芸術館〉に関する思い出や、時にはっきりしないこともある個人的な記憶の断片が綴られている。
《フィクション・トラベラー》は5人のさまざまな年代の水戸在住者へのインタビューをもとにしたもの。テキストは中﨑の旧作と語り会うように、展示室中に散りばめられている。これまでも彼はその場所に関係のある人々にインタビューを行い、それを元にしたインスタレーションなどを発表してきた。
今回は展示の最後にインタビュー相手の名前が記載されているが、個々人の属性や誰がどのテキストを語ったのかは特定しにくい。中﨑の過去作品でも語り手は記載されていない。が、話の内容から話者を推測することはできる。
「同じ出来事でも人によってバラバラな話になることってありますよね。別にウソをついているわけではなく、単に忘れていたり、認識が違ったりすることってよくある。歴史というのは過ぎてしまうと一本の線のように見えてくることがあるけれど、話者を明示しないのはそれへの抵抗なんです。歴史って複数のものが何重にも絡み合っているものだと思うから、ぼやっとした総体であってほしい。壁のテキストもぼやっとした輪郭を作りたくて、こうしています」