「若い人に展示を見てほしい」。ヘイトクライムの被害にあった京都・ウトロ地区、平和祈念館が未来につなぐ願い
事件は、在日コリアンが多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区であった。去年8月30日、ウトロ地区の空き家に火が放たれ、住宅など7棟が全半焼。この事件で、ウトロ地区の歴史を伝える資料も消失した。建造物損壊や非現住建造物等放火などの罪に問われたのは奈良県桜井市の無職、有本匠吾被告(23)だ。裁判では、その前月にも名古屋市にある在日本大韓民国民団や韓国学校の建物に放火した罪に問われていた。
初公判は5月16日。傍聴券は約5倍の倍率だったが、筆者は運良く抽選に当たり、裁判を傍聴した。
被告は「どこにでもいそうな普通の若者」にみえた。裁判官との受け答えは流暢で、むしろ雄弁な印象を受けた。
検察官が読み上げた調書によると、被告は専門学校を出て仕事をしていたが、職場環境に馴染めず退職。2021年8月に医療事務員の仕事を見つけたが、9月に検挙されてまた無職になったという。検察は冒頭陳述で、「無職の劣等感と、憂さ晴らしをしたい気持ちと、社会から注目を浴びたいという気持ち。そして『韓国人への悪感情』から狙いをつけた」と指摘した。
さらに検察側は、名古屋の韓国民団と韓国学校への放火事件がニュースとして大きく取り上げられず、社会から注目されるため、ウトロ地区を狙おうと決意したとも指摘。ウトロ地区の事件が広く報じられると、被告は友人にネットニュースを送り、SNSでシェアしたという。
有本被告は起訴内容を認め、その後6月に開かれた第二回公判では、「ウトロ平和祈念館の開館を阻止することが目的だった」「展示品を使えなくすることが開館阻止につながる」「韓国人への敵対感情があった」と動機を語ったという(*1)。
また、朝日新聞デジタル(*2)によると、被告は最終意見陳述で「私のように差別、偏見、ヘイトクライムの感情を抱く人は多いことを認めなければいけない」と主張。さらなるヘイトクライムを予期するような内容で、関係者に衝撃を与えた。
検察側は懲役4年を求刑。一方弁護側は、「社会から孤立しがちで自暴自棄に陥っていた」として減刑を求めていた。