東大教授が恩師から教わった「諸君、時にはホラを吹け!」
『歴史学者という病』――そんな題名だけ聞くと、さぞかし怖い本のように思うかもしれない。しかし、実際に読んでもらえればわかるが、この本は歴史学者・本郷和人の人生を本人が語りながら、生きていくことの辛さや不可解さ、そして、面白さや可能性などについても触れている。そこで特別企画として、この本にはあまり収録できなかった話を中心に「人生相談」風にまとめてみた。題して「人生の難問は歴史学者に聞け。本郷和人のルサンチマン人生相談」です!
第九回は、「歴史の空想には意味がない?」です。
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いわゆる歴女です。「歴史にIFはない」と言いますが、私はよく歴史上の出来事や人物の接点を想像して、「本当はこうだったのかもしれない」と考えてしまいます。しかし研究者の友人から、「実証できないことは考えるだけムダだよ」と言われてしまいます。空想するのはいけないことなんでしょうか。
愛ある「空想」と、科学的な証明を拠り所とする「実証」の間で思い悩む――。
相談者さんと研究者のご友人の会話が、スッと想像できるような一場面だ。
きっとこうしたお悩みをお持ちの歴史愛好家の方も多かろうと思うので、自分の経験をたっぷり詰めてお答えしていきたいと思う。
時代は私の学生時代にさかのぼる。
恩師の石井進先生は、ことあるごとに「ホラを吹きなさい。大きなホラを吹く練習をしなさい」と、私に向かって言い続けた。
当時の私はそれとは真逆に、「実証」という、ゴリゴリと科学的に事実を証明していく、他の先生方の仕事を重要視していたので(つまり相談者さんのご友人のような立場だ)、石井先生の「ホラを吹け」という言葉がまったくピンと来なかった。
むしろ胡散臭ささえ感じていた。
けれども。
今にして思えば、石井先生の言いたかったこともよく分かる。