古今東西 かしゆか商店【真珠の念珠】
子どもの頃から知っていて、大人になれば一つは持つようになる。日本の文化に深く根づいているお数珠ですが、実は歴史も意味も知らずにいることに気づきました。
「想いを込めて念じるものだから “お念珠” 。私たちは創業時からそう呼んでいるんですよ」と教えてくださったのは、京都・寺町の六角通にある〈安田念珠店〉の安田容造さん。江戸時代初期に創業し、約340年間、当時と同じ場所で同じものづくりを続けている老舗の10代目です。
「念珠の原型が生まれたのは、仏教発祥の地とされるインドです。それが仏教とともにシルクロードを経て中国へ伝わり、日本に渡ってきたのは6世紀頃。もともとは、数を数えながら、その数を忘れないでおくための道具だったようですね。例えば、念仏を唱えながら珠を繰り、何回唱えたかを数える……という具合です」
最初はお坊さんだけが持つ道具だったのが、江戸時代になって一般の人々にも広まり、祈りの象徴という意味が強まったのだとか。
そんな念珠は昔も今も、職人さんの手で丁寧に作られます。まずは、絹糸の先をほどき、きつく撚り直して珠を通すところから。
「手に持ち、合掌してすり合わせるものなので、強くなければいけませんから」と話すのは職人の長澤和也さん。
「宗派によって形も持ち方も変わりますが、煩悩の数と同じ108つの珠を使うのが基本形です。また、大きさの違う珠があるのがわかりますか? 大きい親玉はお釈迦さまなどのご本尊を表します。すべての珠に意味があるんです」
珠をすべて通したら、絹糸の房をしっかりと留めて完成です。驚いたのは、珠の種類が多いこと。「七宝」と呼ばれた金、銀、瑠璃、硨磲、珊瑚、瑪瑙、玻璃(水晶)のほか、真珠や翡翠、木の珠まで。