目利きの書店員が選ぶ、若手写真家の写真集3選【LIBRIS KOBACO編】
富澤大輔がモノクロフィルムで撮り下ろした数千枚の写真の中から、デザイナーの浅田農と共に1年をかけて作り上げた写真集。「字」という変わったタイトルからは想像もつかないのですが、日本各地のどこにでもあってどこでもない風景を、富澤ならではの目線で見ることができます。目の前の風景や事柄ばかりに目が行きがちな写真表現を、写真とはこうあるべきという枠組みを越えた作家独自の視点で再解釈されていて、読み解くために何度も読み返したくなる1冊です。このとらえどころのない感覚の答えを、今後の作品で見つけることができたらと楽しみにしています。
中国内モンゴル出身のリュウ・イカが、さまざまな場所、被写体をスナップ写真で構成したパワフルな1冊。写真集を見ているはずなのに、まるで自分がたくさんの視線に晒される感覚に陥ります。ページをめくる度に何度も手を止めて、本を閉じて、そして深く息を吸って……そんなことを繰り返しながら最後のページに辿り着いたときには、言葉にできない達成感のようなものを感じました。紙のざらつく感覚が指からなかなか消えず、余韻とはまた違うなにかを肌でずっと感じる写真集です。エネルギーあふれる作家なので、表現方法が今後どのように広がっていくのかとても注目しています。
デジタルネイティブ世代である吉田志穂がインターネット上で山を検索・撮影し、さらに実際に現地に赴いて撮影を行い、独自の視点で山にアプローチした1冊。現実と仮想の境界の曖昧さをより深く覗き込みながら、実際の山の写真と、インターネット上にあるデジタル世界の山の写真が自分の中で交差し、デジタルの点の集合体の向こうに現実があるような感覚になっていきます。そして、写真集を見ていること自体があやふやで不思議な感覚を与えてくれる、とても美しい本です。写真集だけでなく、今後の展示もとても気になっていて、個人的に必ず見に行きたいと思っている作家のひとりです。