中国の「白血病村」で目にした残酷な現実 写真家・鄒楠〈dot.〉
白血病の患者とその家族たちを3年にわたって写した作品「燕郊物語-中国の白血病村」が名取洋之助写真賞奨励賞を受賞した。撮影したのは中国人の写真家・鄒楠(すう・なん)さん。
北京郊外の街、燕郊には有名な血液病の専門病院「河北燕達陸道培醫院」があり、白血病の患者たちが高度な治療を求めて中国北部の各地から訪れる。
患者たちは血縁者の骨ずいなどから採取した造血幹細胞の移植手術を受けるのだが、治療は入院生活を終えた後も続く。闘病生活は平均約5年。それを支えるため、病院の周辺には大勢の患者家族が住む地区がある。それが「白血病村」である。
■もう治らないと言われて
患者たちはみな、地元の病院で「もう治らない、諦めた方がいい」と言われ、燕郊にやって来た。「この場所は彼らにとって最後の希望なんです」。しかし、そこで鄒さんが目にしたのは残酷な現実だった。
撮影した白血病患者の多くは子どもだった。
感染防止用のビニールカーテンで囲われたベッドに座った10歳くらいの子どもがうつろな目で天井を見上げている。鼻から流れ出る血が止まらないのだ。そのわきで父親がティッシュペーパーを顔に押しつけるようにして血をふき取っている。下を向く父親の鋭い視線はどこか遠くを見つめていた。
鄒さんはそんな写真を見せながら、「この子は撮影の翌日、亡くなりました」と、つぶやく。
やはり、病院のベッドに座り、レンズをぼんやりと見つめる患者の姿。その顔は大きく膨れ上がっている。
「移植した造血幹細胞の拒絶反応を抑えるためのホルモン注射の副作用で顔が大きくなっています。19歳の彼も亡くなりました」
「これは記念写真です」と、見せられた写真には患者の女の子がほほ笑んでいる。その横には造血幹細胞を提供した弟が座り、姉を抱きしめている。そして両親の姿。
「これから家族で故郷に帰るところです。移植した造血幹細胞をコントロールできず、治療を諦めた。この子も多分亡くなったと思います」