フォロワーは7万人 ベトナム語だらけの書店が目指すもの
東武東上線・北坂戸駅(埼玉県坂戸市)の東口を出て1分、マンション1階の一角に「Macaw Bookstore(マカオ ブックストア)」はある。約30坪の店内にはベトナム語の本がずらり。小説や絵本に料理本、日本語をはじめ各国語の参考書など、1万冊近くを取り扱う。
一番の売れ筋は米国人の作家、デール・カーネギーの世界的ベストセラー「人を動かす」。原著は80年以上も前に発行されたが、今も根強い人気だ。日本人作家では東野圭吾の作品がベトナム人にもよく読まれるという。
「もともと書店を始めるつもりはなかった。本が捨てられず困って、他の人に譲っていたのがきっかけでした」。店主のゴ・ゴック・カンさん(27)は照れ笑いしながら、流ちょうな日本語で明かした。
首都ハノイ出身で、読書好きの父の影響で幼い頃から本に親しんだ。留学のために2015年に来日した後も、埼玉県内の日本語学校や大学に通いながら多い時で週に3、4冊を読破した。母国の実家から毎月スーツケースいっぱいの本を送ってもらった結果、下宿先は大量の本であふれた。
しかし、もう読まない本を捨てることには抵抗があった。「日本では、ごみ捨て場に本が山積みにされていてびっくりしました。ベトナムにいた頃は他の人にあげるか、売りに出すのが普通でした」
そこでまず考えたのが、読まなくなった蔵書をSNSを通じて売ることだった。絶版本もあるなど種類の豊富さで注目され、各地の在日ベトナム人からメッセージが届くようになった。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まると、自宅で読書をして過ごす人が増えたのか、さらに問い合わせが増えた。カンさんは「コロナで仕事を失ったり、学校に行けなくなったりした人も多くいました。そんな時に本が心の支えになったのかもしれません」と振り返る。
経営者としてのビザを取得して、21年4月に店をオープン。母国から本を仕入れて販売するビジネスに乗り出した。今も売り上げの大半はネット販売が占める。留学生などの在日ベトナム人だけでなく、技能実習生を受け入れる日本企業からの注文も多いという。
最近の円安で輸入にかかる経費は跳ね上がったが、「最近は注文のあった商品だけ仕入れるようにしている。お客さんのために、あまり値上げせずに頑張りたい」と話す。
日本人がベトナムの文化に触れるきっかけになればと、「フリーライブラリー」の活動も始めた。店先に本棚を設置し、読まなくなった本を置いてもらったり、逆に自由に持ち帰ってもらったりする取り組みだ。
「本を通じた集いの場を作りたい」。そんなアイデアもある。店内にテーブルや椅子を設け、自由に集まって食事や読書ができるようにしようと計画中だという。この夏には軽トラックを購入し、いずれは離れた場所に出向く「移動書店」もやりたいと考えている。