ねぶた祭3年ぶり開催へ 厄災祓い「コロナ吹き飛ばせ」
青森ねぶた祭の出発地点に近いJR青森駅前の一角に設けられたねぶた小屋。開幕まで2週間を切った7月下旬、ねぶた師の立田龍宝(たつた・りゅうほう)さん(37)が制作した高さ5メートル、幅9メートルの「風神雷神」の大型ねぶたが迫力ある姿を現した。
五穀豊穣(ほうじょう)をもたらす神として、古くから信仰を集める風神雷神は、ねぶたの定番の題材の一つ。3年ぶりの力作に、立田さんは「コロナを稲妻で打ち消し、風で吹き飛ばすように」との願いも込めたという。
2年前の春、コロナの最初の感染拡大を受け、祭りの中止が決まった。戦後初めてのことだった。「ねぶた祭は当たり前にあるもの。青森の人たちは短い夏の祭りを楽しみに長い冬を耐える。それを失った衝撃は計り知れない」。立田さんは当時を振り返る。
同時に自身の生活を考えると、「頭は真っ白、先は真っ暗」だった。ねぶた師は、依頼を受けた運行団体から制作費を受け取り、1年間かけて作業を進める。制作費から材料費やスタッフの人件費などを引いた残りが自身の収入となる。
コロナ禍前、立田さんには毎年2台の大型ねぶたの受注があったが、祭りの中止で制作も頓挫。流行「第5波」の最中だった昨年も開催が見送られた。「突如、収入は半減し、貯金を切り崩しながら何とかしのいできた」と打ち明ける。
青森市内で現役のねぶた師は14人。地元で生まれ育った立田さんは大観衆の中を勇壮に練り歩く大型ねぶたの光景に魅せられ、中学生だった14歳の時、内山龍星さん(60)に弟子入りし、28歳で独立した。
仕事の中には企業向けの展示用ねぶたの制作などもあるが、「ねぶた祭で大型ねぶたを作ることが、ねぶた師にとっての一番の喜び」と力強く語る。
無病息災を祈る七夕祭りの灯籠流しに由来があるとされるねぶた祭。コロナ禍でやる初の祭りは、感染の「第7波」が直撃する中での開催となった。だからこそ、立田さんは「祈り」の意味を嚙みしめている。
「賑やかだったかつてのねぶた祭りの様子とは違い、今回は落ち着いた祭りになるかもしれない」。感染拡大に対する緊張感はあるが、コロナへの挑戦という意味でも、祭りを行う意義は大きいと信じる。「青森の夏を感じる、というねぶた祭りの原点に立ち戻り、みなさんと一緒に、心と五感で祭りの雰囲気を楽しみたい」。そう願っている。(末崎慎太郎)