坂 茂の紙管を使った間仕切りが、ウクライナ難民支援でも活用されています。
「ウクライナ難民の置かれている環境は、地震や豪雨などの災害が起きた直後の日本の避難所に近いと思います」
こう話すのは、災害支援を積極的に行う建築家として知られる坂 茂。人類に対して類まれな貢献をした個人や組織に贈られる〈マザー・テレサ社会正義賞〉を、日本人として初めて受賞した坂が支援活動を始めたのは、今から30年ほど前に遡る。
「ルワンダ難民(94年の内戦により200万人以上が周辺国に流出)の記事を週刊誌で見たのがきっかけでした。毛布にくるまれて寒さに震える人々や、ビニールシートに寝泊まりするようなキャンプを見て、居てもたってもいられず、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に手紙を書いた。しかし、返信がなかったので、ジュネーブ本部にアポなしで出かけていき、結果、提案が認められてコンサルタントに就任したんです」
以来、1995年の阪神・淡路大震災、トルコ北西部地震(1999年)、インド西部地震(2001年)、東日本大震災(2011年)、クライストチャーチ地震(2011年)など、世界各国で被災した人々の支援を精力的に行ってきた。
そんな坂が取り組んだのが、ウクライナから出国した難民を収容する施設に間仕切りシステムを導入するプロジェクトだ。
「彼らはいわゆる体育館のような大きな施設に、大勢の人が雑魚寝するような状況にありました。プライバシーも何もあったものではない。そこで、調達がしやすく、設営も簡単な紙の間仕切りシステム(Paper Partition System、以下PPS)」を提供することにしたんです」
PPSとは、長さ2mの紙管を柱と梁に見立てて組み立てたフレームに、布をかけただけの簡易なパーティション。これまで東日本大震災や九州南部豪雨など、多くの被災地で利用されてきた。