けんご 娘・息子が突然小説を読み始める。きっかけはTikTokクリエイター
(『中央公論』2022年4月号より抜粋)
――TikTokやInstagramなどを通じて多くの小説を紹介されています。今、気になっている本はありますか。
『どこの家にも怖いものはいる』という三津田信三(みつだしんぞう)さんが書かれた本です。僕はこれが世界で一番怖い小説、そして、呪いの小説だと思っているのです。
数日前にTikTokで紹介したところ、その日の夜から、なぜだか体調が悪くなり始めた。翌日までは若干だるいぐらいで、普段通り生活ができるレベルだったのですけれども、そのうち悪夢を見るようになりまして。熱も急激に上がって、文字通り、もう死ぬかもしれないと。ですが幸い、今日になってすっと体調が戻りました。PCR検査の結果も陰性で、なぜ数日前から体調が悪くなったんだろうと思い返してみたら、ちょうど『どこの家にも怖いものはいる』を紹介していて、少しぞっとなって、もしかしたら呪われたのかなと思いました。この先も多分、忘れがたい本です。
筒井康隆さんの『残像に口紅を』も、大きくバズったという意味で印象深いです。物語の設定が斬新でとても面白かったんですけど、それ以上にかなり難しかった。これをキャッチーに紹介できたらと思い、挑戦してみました。僕の今まで投稿してきた動画で再生数、いいね数、コメント数がずば抜けて多いものです。
――視聴者、フォロワーからの反響について教えてください。
見てくださる方の中には、中高生の世代、特に女の子がかなりの数います。僕の紹介がきっかけで、「初めて小説を読み始めた」とか、「小説って難しいと思っていたんですけど、読んでみると本当に親しみやすくて、すごく好きになりました」とか。そんな嬉しいご感想をたくさんいただきました。
中高生だけでなく、その親御さんからも、コメントやダイレクトメッセージをいただくことがあります。「娘・息子が突然小説を読み始めて何事かと思っていたら、けんごさんの紹介がきっかけでした。どうやったら子供に読書の習慣を付けることができるのかとずっと悩んでいたんですけど、おかげで子供が本を読むようになりました」と。
基本的に、僕の動画をきっかけに読み始めたとか、作品を知ったというご意見やご感想が多い印象です。
小説紹介で初期の頃から一貫してぶれずにやっているのは、どんな作品でも、この小説を読んだことがない人が読んでみようと思うか思わないかを意識することです。
SNSは偶然の出会いが多い場だと思っています。動画を契機として小説に出会い、読みたいと思って実際に手に取ってもらう。結構険しい道のりではあると思うんですけど、物語の良さが伝わる紹介をできれば、読んでくださる方がたくさんいるのを実感したので、そこは揺るがさずやっています。
書店に通う人とは違い、SNSをよく使う人は、“本に興味ない派”のほうが圧倒的に多いと思っています。言い方はおこがましいかもしれないですが、その人たちに偶然の出会いを作ってあげられたらいいなと思いながらやっています。