「羽生世代」息災なり…斬り合い辞さず、ランキング戦で続々勝ち名乗り
竜王戦のランキング戦は、3組以上は初戦から2連敗すると降級となる。1回戦の重要度が相当に大きい棋戦だ。今期の1組1回戦で最注目のカードとなった羽生九段と佐藤天彦九段の一戦。「永世七冠」資格保持者の羽生九段に対し、佐藤天九段は名人3期の実績を誇り、「貴族」の異名を取る優雅な受け将棋だ。羽生九段の先手で横歩取りの将棋に。中盤で主導権を握った羽生九段は、終盤でも読みがさえていた。
第1図は△3五香と飛車取りに打って佐藤天九段が紛れを求めた局面だ。ここから羽生九段は▲8六角と、鮮やかな返し技を用意していた。△3六香▲9七角△3八香成と一直線に進めると、後手玉には▲6四角から長手数の詰みが生じる。よって、実戦は▲8六角に△同馬▲同飛と進行し、飛車を活用して先手には怖いところがなくなった。以下、手数はかかったものの、羽生九段が勝ちきった。「ほっとしました」と局後に羽生九段はほほえんだ。
控室で検討していた八代弥七段は「▲8六角は鮮烈な一手でした。水面下での斬り合いを含みにした組み立てで、羽生九段の読みは深くて正確でした」と称賛した。敗れた佐藤天九段は「▲8六角を打たれて、思わしい手がなかったです」と口にした。52歳となった羽生九段は、「詰む・詰まない」という速度計算でも、若手棋士が舌を巻くほど精密だった。
名人経験者で竜王戦のランキング戦にめっぽう強い52歳の丸山忠久九段は、29歳で1組に昇級して勢いのある三枚堂達也七段との一戦だった。 十八番(おはこ)の一手損角換わりで、丸山九段は中盤で優位に立つと、手堅くリードを広げ、夕食休憩前に三枚堂七段を投了に追い込んだ。感想戦では、満面の「まるちゃんスマイル」を披露した。
それもそのはず。丸山九段は昨年の8月下旬から白星がなく、9連敗中だった。「人生でこんな長い連敗は経験したことがなかったです。誰と対戦しても勝てる気がしなくて、20連敗くらいしてもおかしくないと覚悟していました。竜王戦で勝てて、本当に安心しました」と明かした。5か月ぶりの勝利。若手を破った竜王戦が、復調のきっかけになりそうだ。
竜王経験者で十八世名人の資格保持者である森内俊之九段は、現役タイトルホルダーの永瀬拓矢王座と顔を合わせた。中盤で形勢を損ねた森内九段は敗れたものの、終盤は簡単に倒れない粘りの手を続け、永瀬王座を最後まで楽にさせなかった。