ゲルハルト・リヒター展が東京国立近代美術館で開幕。『ビルケナウ』など日本初公開作も多数
1932年にドイツ東部のドレスデンで生まれたリヒター。本展では今年90歳を迎えたアーティストの60年におよぶ画業を振り返る。
リヒターの日本の美術館での個展は16年ぶり、東京では初めて行なわれる美術館での大規模個展となり、ゲルハルト・リヒター財団のコレクションと本人所蔵作品から122点が一堂に会する。『フォト・ペインティング』や『アブストラクト・ペインティング』といった作品シリーズをはじめ、油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多様な素材を用いて取り組んできた作品群を通して、リヒターのキャリアをたどる展覧会だ。
ここではオープニングに先駆けて行なわれた内覧会の模様をレポートする。
入口を抜けると、まず大きなガラスのインスタレーションが出迎える。壁面にはガラスの作品を取り囲むようにして『アブストラクト・ペインティング』の作品群が並ぶ。
展示室の中央に配置された『8枚のガラス』には、作品を見ている自分自身やほかの鑑賞者の姿、そして周りの作品などが映り込んで見える。横から見てみると、それぞれのガラスは異なる角度がついて立っていることがわかる。置かれた場所やその時々でさまざまなイメージを映し出すガラスや鏡を用いた作品は、「見るということはどういうことか」という根源的な認識を問うてきたリヒターの姿勢が表れている作品群だ。会場には本作のほかにも鏡やガラスの作品が展示されており、鑑賞者は展示室をめぐりながら「見る」ということを意識させられる。
『アブストラクト・ペインティング』は、リヒターが1970年代から40年以上にわたって描きつづけてきた抽象画のシリーズ。1980年代から導入したスキージと呼ばれる自作の大きなヘラのような道具などを用い、塗り重ねて削られた絵の具が複雑な画面をつくりだしている。
本展には大小さまざまな『アブストラクト・ペインティング』の作品が集うが、後述する『ビルケナウ』(2014年)以降の、色彩が鮮やかな『アブストラクト・ペインティング』が展示されていることも見どころのひとつ。リヒターがこの作品を描き終えたあとに「もう絵は描かない」と宣言した2017年の『アブストラクト・ペインティング』も出展されている。