華やかさの秘密はここにあり!《職人尽絵》にみる日本画の色づかい《絵画修復家が教える名画のウラおもて》
修復を通じて、作品のオモテはもちろんウラ側もたくさん見てきた小谷野さんだからこそ知る、名画の秘密を教えていただきます。
職人尽絵とは、主に桃山時代から江戸時代初期にかけて、手工業を中心に各職人の働く姿や生活風景を描いた風俗画のことです。複数の職人尽絵が各地に現存しているものの、近世初期までの作品はそのほとんどが作家不明ですが、埼玉県川越市の寺院、喜多院所蔵の喜多院本は、狩野吉信の作と判明しています。
ここで紹介する《職人尽絵》(箱に「前川道平」の貼り紙があることから「前川家本」と呼ばれる)は17世紀作といわれています。傘師、鍛冶師、蒔絵師、機織師、扇師、桶師などを含む25種の職人が描かれ、24点で構成されています。それぞれ縦約60センチ、横約40センチの和紙に、日本画の画材で描かれています。
平成の時代に発見された本作品は、著名であり重要文化財にも指定されている「喜多院本」、現存最古のものと考えられる古雅な画風の「旧田辺家本」に劣らぬ優れた絵師によるものとして、美術史家の関心を惹いています。
《職人尽絵》(前川家本)には、初めに引いた描線を塗り潰さないように線を避けて彩色する彫塗りや、模様が細かく正確に描かれた豪華な着物の表現が見られます。このような特徴から、長谷川等伯を祖とする長谷川派の流れを汲む絵師の作品ではないかと考えられています。長谷川等伯は斬新な構図と明快な色彩を特徴とする絵画を描き、桃山時代に活躍した絵師です。