漫画家・水木しげるゆかりの地、東京・調布を歩く
今年で生誕100周年を迎えた漫画家の水木しげるは、人生の大半を東京西部の郊外にある調布市で過ごし、代表作『ゲゲゲの鬼太郎』もこの地で生まれた。調布の街を歩いてみると、水木が自然や妖怪に寄せた深い愛を感じることができる。
『ゲゲゲの鬼太郎』など妖怪がテーマの漫画で知られる水木しげる(1922-2015)は、日本を代表する漫画家の1人だ。自伝的要素の強い日本や世界の歴史に関する作品も数多く残している。
鳥取県境港市で生まれ育った水木が調布市に移り住んだのは、当時はやった貸本の漫画家としてデビューを果たした翌年、1959年のことだった。その頃、調布にはすでに都市化の波が押し寄せていた。かつては小さな田舎町だったが、23年の関東大震災を機に多くの人や企業が移り、急速に成長した。とはいえ、調布にはまだまだ畑や森林などの自然が残っていた。調布は、水木にとって物語を創作する理想的な環境だった。
『ゲゲゲの鬼太郎』や他の妖怪漫画のテーマは、人間が、超自然現象も含めた自然や、この世に宿るさまざまな生き物と共存することの大切さだ。中には目に見えない生物もいるが、そもそも人間は古来より五感で捉えられないものを思い描いてきた。水木はかつて、人口が密集する都市部では妖怪の数が壊滅的に減ったのは、五感が刺激され過ぎたことにより、人々が想像力を失ってしまったからだと語っていた。一方で妖怪は、人口が少なく木々や水源が豊かな場所を好むようで、水木が調布を愛した理由はそこにある。
現在、京王線の特急に乗れば新宿駅から20分足らずで調布駅に着く。調布駅から運行される鬼太郎が車体に描かれたカラフルなコミュニティーバスにはさまざまな路線があり、市内のあちこちへ連れて行ってくれる。しかし、調布の魅力をより深く探るには散策するのが一番だ。
とにかく、駅のそばのスポットから散策をスタートしよう。
調布駅北口にある天神通りは一見どこにでもある普通の商店街だが、足を一歩踏み入れるとすぐに、水木の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターが並んでいる。ベンチに寝そべるねずみ男や、変圧器の上で一反(いったん)もめんに乗っているねこ娘。商店街の入り口では、鬼太郎が買い物客や通行人を出迎える。これらが設置されたのは1991年で、商店街を頻繁に利用していた水木自身の提案だった。ここは今でもゆったりとした雰囲気に包まれている。商店街の一角には水木プロダクションが入ったビルがある。同事務所は水木の膨大な作品の管理や、漫画やアニメの新たなプロジェクトを企画している。
天神通りの北端は布多天神社に通じる参道になっている。緑の木々に囲まれたとても古い神社で、垂仁(すいにん)天皇が統治した紀元1世紀に建立されたと言われている。調布駅から徒歩わずか5分の場所に、これほど静寂な空間が広がっているのは驚きだ。布多天神社は有名なパワースポットとして人気があるだけでなく、オタクの巡礼地、つまり鬼太郎ファンが「聖地巡礼」で訪れる場所としても有名だ。鬼太郎の物語の原型である『墓場鬼太郎』によると、神社内の小さな林は鬼太郎のすみかでもある。
神社にお参りをし、鬼太郎みくじを買った後、野川と呼ばれる小川を渡り、田んぼや果樹園、いくつもの小さな店を通り過ぎながら、さらに北へと進む。