「潜伏キリシタン」の十字架やマリア観音、個人で守る史料の危機…子孫ら人口減や高齢化
海に面し、傾斜地が広がる長崎市・外海地域の「外海潜伏キリシタン文化資料館」。十字架やマリア観音といった信仰具など約40点が展示されていた。
潜伏キリシタンの子孫の松川隆治さん(83)が、知人から30平方メートルほどの平屋を借り、遺産登録の1年前にオープンさせた。
公共施設のような防犯設備はなく、2年前の大雨では雨漏りもした。「地域のために」と使命感で運営するが、後継者はいない。「史料を受け入れてくれる公共施設があれば、そこに引き継ぎたい」と話す。
長崎県五島市の離島・奈留島の柿森和年さん(76)も昨夏、私設の資料館を開設した。オラショ(祈りの言葉)を記した文書など約150点を紹介している。高齢化で洗礼などの行事が途絶えた結果、価値を顧みられずに捨てられる史料があることを知り、危機感を覚えたという。
柿森さんは「世界遺産登録がゴールではない。信仰の歴史と価値を守っていくことが大事だ」と強調。資料館の存続に向け、社団法人をつくることも検討している。
潜伏キリシタンは弾圧から逃れて離島や過疎地などに移住した歴史から、構成資産にはへき地が多く、深刻な人口減や高齢化に直面する。史料の管理については、登録前から懸念されており、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」は2017年、遺産登録に向けた現地調査で信仰具の法的保護の必要性を示唆していた。
長崎県によると、関連史料を保管している施設は官民で20以上あるとみられる。寺や教会が保管しているケースもあれば、個人の私設資料館もあり、全容は把握できていないという。