ミラノ伝統のメゾンがコラボレーション。アズチェナ×セラピアンの《カティリナ チェア》が上陸。
アルメニアからイタリアに移住したステファノ・セラピアンが、ミラノで革製品の工房を開いたのが1928年のこと。以来、〈セラピアン〉は社交界を中心に、多数のオーダーメイド、カスタムメイドを手がけながら、職人の技を極めてきた。
「戦後から70年代にかけて華開いたイタリアの映画産業黄金期には、アメリカから多数の映画人がイタリアにやってきて、たくさんのセラピアンファンが誕生しました。なかでもオードリー・ヘップバーンは、主演を務めた『おしゃれ泥棒』の劇中でセラピアンのバッグを用いて以来、プライベートでもうちのアイテムを使ってくれるヘビーユーザーでした。また、創業以来、婦人向けのものづくりが中心だったのですが、60年代以降は紳士物も手がけるように。フランク・シナトラも愛用者のひとりだったようです」
工房の輝かしい歴史をこのように話すのは、創業者の祖父から、叔父を経由し、三代目を引き継いだジョバンニ・ノダリ・セラピアンだ。際立つ個性、唯一無二の存在価値を求める特別な顧客たちのこだわりによって、セラピアンの職人技はどの工房にも負けないレベルに達したと彼は付け加える。
「お客様の好みによって、いかようにもパーソナライズできるビスポークサービスは、いまでも人気で、工房にはおよそ550種類のレザーが揃っています。創業からこれまでに手がけたコレクションの数は8000を優に超えるでしょうね」
バッグだけでも600種。ほかにも財布、ベルトといった小物から、車の内装まで、レザーで作れるものなら何にでも挑戦してきた。また、ヴィコ・マジストレッティやジオ・ポンティをはじめとしたデザイナー、建築家との協業も多数手掛けている。
そんなセラピアンが、今回のプロジェクトでコラボレーションの相手に選んだのは、ルイジ・カッチャ・ドミニオーニ、イグナツィオ・ガルデッラ、コラード・コラーディ・デラックアの3人の建築家が1947年に設立した家具ブランド、〈アズチェナ〉。数ある作品のなかで、セラピアンが目をつけたのが、創業者のひとりであるカッチャ・ドミニオーニが、1953年に開催した第11回ミラノトリエンナーレで発表した《カティリナ チェア》だった。
「アズチェナの事務所と私たちの工房はすぐ近くにあり、カッチャ・ドミニオーニは私が敬愛する建築家の一人なんです。そしてこのアズチェナが創業した1947年は、奇しくも私たちが代表的なコレクション『モザイコ』を開発した年。ある意味、このコラボレーションは必然とも呼べるものだったのです」