連載・季節の賞翫(しょうがん) 飾り花 梅雨──心の色を映す白い紫陽花
※賞翫/良い物を珍重し、もてはやすこと。物の美を愛し味わうこと。
文=岡田 歩(造花工藝作家)
これから梅雨入りするかと思うと、少しうんざりする気持ちになりますが、恵みの雨であるのも事実。「長い雨の時間を上質なものとして心地よく過ごすには……」と、指折り数えながら、一つ一つ思い浮かべています。
雨の音の美しさ、水溜りに揺れて映る枝葉の景色、すべて洗い流されたような雨上がりの空の爽やかさ……。雨だからこそ感じられる趣のある風情も様々で、なかでも、雨露に濡れる紫陽花の姿は一層美しく、心が洗われます。雨の時間が少しでも素敵になりますようにと心を込めて、紫陽花の飾り花をこしらえました。
今も昔とさほど変わりませんが、幼い頃の私は室内で過ごす時間が大好きで、ものを作り、絵本や興味あるものを眺めては想像を膨らませていました。雨の日は、形を変えながら窓ガラスをつたう水滴の自然の造形美に幻想性を感じ、その様子をひとり静かに眺めているのが好きでした。また、雨の雫には不思議な効力があり、それによって紫陽花の花が色づき、変化してゆくのだと空想していましたが、学校に通うようになり、萼が花びらのように色を変え、土壌の成分がその色に作用するということを識りました。
紫陽花は花の色がよく変わることから「七変化」という異名があるそうです。その他にも「八仙花」、「四葩(よひら)」、「オタクサ」など、数多くの異名があります。
「八仙花」は、「はっせんか」または「あじさい」と読みます。「八仙」とは「八人の仙人」を表していて、紫陽花を中国語では「八仙花」と綴るといいます。
「四葩」の「葩」は花びらのことで、四枚の花びらを表します。
「オタクサ」は、江戸時代の蘭学者シーボルトが長崎で運命的な出逢いをした女性「お滝さん」の名前から、紫陽花を「ヒドランゲア オタクサ」と命名したという有名な逸話があります。長崎では今も紫陽花は「オタクサ」と呼ばれることがあるそうです。