クリエイターと産地を結ぶ。山梨県・富士吉田市を舞台にした「ここのがっこう」の卒業制作展
“装うことの愛おしさを伝え、ファッションを通して社会に還元できるような創造性を育くむこと”――それが、writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)のデザイナー山縣良和が主宰するファッションの私塾「ここのがっこう」のフィロソフィーだ。受講希望者に年齢や職業、デザイン経験の有無は問わない。実際にこれまで、10代の学生から80代まで、デザイン未経験の社会人やアート、建築分野に携わる人も学びをともにしてきた。活躍が目覚ましいTOMO KOIZUMIの小泉智貴やWATARU TOMINAGAの富永航も、この「ここのがっこう」の卒業生だ。
「ここのがっこう」の特筆性、面白さは、そうした学びの場としての受け皿の広さ、そして卓越したクリエイターを多く輩出していることだけではない。2021年から、山梨県・富士吉田市で、その年に受講を終える学生たちの作品をインスタレーション形式で発表してきた。いわゆる卒業制作展だが、少し趣が異なる。会場は、市内に点在する複数のスペース。ランウェイや美術館といった権威のある場所、見る人が限られた場所ではなく、社会空間の中で自身のクリエイションをさらけ出すことで、何が見出せるか。社会とクリエイターの接点をつくり、そこで何ができるのかーー。そうしたものづくりにおいて重要な課題と、受講生たちは最後に向き合うわけだ。
きっかけは「コロナ禍となり、大々的な展示企画ができない状況が続いたこと。であれば、あらためて自分たちが協業すべきところと一緒に新しいことができればと思った」と山縣良和は説明する。富士吉田は、日本屈指の織物の産地。近年はオリジナルブランドを立ち上げ、商品を展開する職人や工房もいる。また「徐福伝説(奏の始皇帝が不老不死の仙薬を求め、富士山に使いを出したという伝説)が残る地であり、土地の歴史やストーリーに惹かれる部分もありました」