丸ごと3D化! 黒川紀章の歴史的名作〈中銀カプセルタワービル〉がデジタルアーカイブに。
黒川紀章の設計による戦後日本を代表する名建築〈中銀カプセルタワービル〉。国内外で愛され、保存再生の可能性も長く議論されてきたが今年4月より解体工事が始まった。新陳代謝を意味する建築運動「メタボリズム」の代表作として知られ、カプセルの交換で建物の老朽化を防ぐとされたことは有名だ。しかし実際にカプセルが交換されることは一度もなく、その役目を終えた。
物理的な保存は叶わなかったが、建築を3Dデータとしてデジタルアーカイブを保存する活動が進められている。これを手がけるのは、建築・都市のデジタル化などを事業とする〈gluon(グルーオン)〉の「3D Digital Archive Project」だ。
ミリ単位で距離を計測するレーザースキャン、デジカメ画像から3DCGモデルを作成するフォトグラメトリとドローン撮影による2万枚以上の写真を組み合わせ、実空間の情報を三次元データ化。写真や図面などの平面的な記録には残らない立体的な構造や形状を記録した。三次元点群データはオープンソースとしてウェブサイトで公開を目指し、データ配布で学術研究や新たな創作活動に繋がる機会創出を目指す。
人の記憶や思いが宿る場所に対し、デジタルデータによる保存は新たな可能性を持つ。〈gluon〉は、ARやVR、3Dプリンターを用いた模型製作などでの再現や活用も考えられるという。また〈中銀カプセルタワービル〉の事例では先行してARデータを公開し、世界中のあらゆる場所に同ビルを出現させる遊び心ある取り組みは、話題を集めた。
さらに三次元の仮想空間でのバーチャル建築ツアーには国内外から多くの希望者が集うことだろう。かつての住人が再びここを訪れることも可能になる。もちろん〈gluon〉の対象は解体が決まった建築に限らない。たとえば修繕が必要な建物を測定し、そのデータの活用益を建物の修繕費に充てることも可能だ。
デジタル化による保存は新しい体験や収益モデルを生み出す可能性を持つ。建築の可能性をも拡張する試みにさらなる期待が高まる。