タブーはなぜタブーなのか…村田沙耶香の終わらない問いかけ
2003年に群像新人文学賞でデビューされてから20年。どんなときもまっすぐに小説と向き合い、書き続けてきた村田沙耶香さん。岩川ありささんを聞き手に迎えた村田沙耶香さんのロングインタビュー「小説を裏切らず、変わらずに書き続ける」(「群像」2023年6月号掲載)を再編集してお届けします。
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岩川 二〇一二年刊行の『しろいろの街の、その骨の体温の』で第二十六回三島由紀夫賞と、第一回フラウ文芸大賞を受賞なさいました。結佳さんという人が主人公で、小学校のころ一緒にいた信子さんや若葉さんとの関係性が、中学校に上がるとだんだん変化していき、「スクールカースト」みたいなものができていきます。この小説の中の、結佳さんと一緒に習字を習っている伊吹陽太という存在に惹かれたのですが、彼はどのように生まれてきた人物なのでしょうか。
村田 クラスメイトたちの似顔絵と名前を小学校時代と中学校時代それぞれ全部びっしり描いたのですが、伊吹は小学校と中学校であまり顔立ちが変わりませんでした。最初は違う似顔絵も描いていて、中学生になった伊吹がとても嫌な、ミソジニー的な人だったこともありました。けれど主人公とむしろ価値観が一致してしまって、会話させても化学変化のようなことが起きなかったので、違う感じの人になりました。
私自身が中学生の時クラスでいろんなことが起きているのに、ものすごく幸せな目で全部が見えている感じの友達がいて、尊敬していたんです。その友人や、また他にも何人かの方のイメージを混ぜながら、少しずつ伊吹ができていきました。
岩川 伊吹はいつも魔法のようなことを簡単にしてしまうと結佳さんは感じているのですが、村田さんにとって伊吹とはどのような存在でしょうか。
村田 汚さや醜さって、なんとなく「本当の側面」として描きやすいですが、現実にはそうではない人とお会いすることってありますよね。自分が幼少期に感じた飢餓感が全くないような人を想像していました。たまに何でこんなに健全で、満たされていて、世界を信じているのかという人と会話をして、こんな精神構造の人がいるんだ、と思うことがあるのですが、そういう人の喋り方や表情と今思うとなんとなく似ているかもしれないです。