答えは無限にある、ライアン・ガンダーの個展|青野尚子の今週末見るべきアート
イギリスの現代アーティストの中でもとりわけ注目を集めているライアン・ガンダー。2017年の大阪の〈国立国際美術館〉での個展に続き、首都圏の美術館では初めての個展が2021年春に開かれることになっていた。が、パンデミックの影響で延期されてしまう。しかし転んでもただでは起きないのがガンダーだ。個展が予定されていた期間、自作のかわりに同館のコレクションを見せる『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』を開催した。
およそ1年遅れで幕を開けた個展は《あなたをどこかへ連れて行ってくれる機械》という、謎の機械から始まる。センサーに手をかざすと地球上の陸地からランダムに選ばれた500万ヶ所の場所の緯度・経度を表示したレシートのような紙が出てくる。コロナで旅行もままならない今、想像上の旅に出てほしい、という作者のアイデアだ。この作品を含め、最初の展示室はこの3年ほどの間に作ったものが並ぶ。
その脇に並ぶ黒い箱の上部には「プログレスバー」が表示されている。コンピュータでコピーなどの操作をしているとき、残り時間を表示してくれるバーだ。ガンダー作品のプログレスバーは「ザグレブからチューリヒまでの平均運転時間」、「皆既日食の最大継続時間」など、人間のさまざまな行為や自然現象の所要時間を表している。ガンダーはイギリスがロックダウンしている間、時間についていろいろなことを考えた。
「あらゆる動物の中で人間だけが過去や未来、自分や他人の死といった、時間に関する事柄を想像することができる。また僕たちのもっとも大きな価値は自己決定権にあると思う。それなのにみんな、お金に振り回されているのはおかしい。仏教でも神道でも死んでしまえばお金を持っていくことはできない、と教えているのに。この世界はとても不公平だ。ごく少数の人が多くのものを持っていて、大多数の人はわずかしか持っていない。でも時間だけは公平なんだ。時間を基準に考えるほうが民主的だ」