『伊藤詩織さん「声をあげたら必ずどこかに届く」被害公表からの日々を振り返る』へのユーザーの意見まとめ
【画像】会見で話す伊藤詩織さん
判決後、都内で記者会見した伊藤さんは「この民事裁判で(性行為の)同意がなかったことが認められたことはとても大きいのではないかと思います。伊藤詩織ではなく、これが自分の近い人に起きたらどうなるんだろう、ということを少しでも想像していただきたかった」と話した。
代理人の西廣陽子弁護士は「真っ当な常識に従った、よく検討された説得力のある判決だ」と評価した。
●「声をあげたら必ずどこかに届く」
2017年5月に記者会見を開き、性被害の事実を公表した伊藤さん。被害を公にしたことについて「後悔はありません」と振り返った。
「当時は性被害について語る風潮が珍しいとされていたかもしれませんが、2017年の10月に#metooの動きが始まり、それにより報道の流れも変わったと、身をもって変化を感じていました」
ただ、被害を公表した伊藤さんへの誹謗中傷も相次いだ。「個人の人生の中での影響は想像を絶する以上に大きかった。(高裁で)負けてしまったら本当に日本に住めなくなってしまうのではないか、という恐怖もあった」と語る。
伊藤さんは「個人として言えるのは、声をあげたら必ずどこかに届くということ。こうしたケースがあるということを頭の隅に覚えていただいて、同じようなことが起きないように、毎日行動していただけたらなと思う」と呼びかけた。
一方、伊藤さんがおこなった記者会見などについて、山口さんは名誉毀損だとして慰謝料など1億3000万円と謝罪広告を求めて反訴していたが、東京高裁は、デートレイプドラッグに関する言及が名誉毀損とプライバシー侵害にあたるとして、慰謝料など55万円の支払いを伊藤さんに命じた。
当時、デートレイプドラッグについて「『それ何?』という反応が多くあった」(伊藤さん)という。その後、次第にレイプドラッグの被害実態が知られるようになり、警察庁は2019年、性犯罪に使用される薬物による影響などについて通達を出している。
伊藤さんは「(通達が出されたことは)大きな前進だった。個人的な感覚で意見を述べたことはそれまでですが、レイプドラッグの被害が実際にあることを広く知らしめられたことについては、自分の中では大きな一歩だったと感じています」と話した。
現在、法制審議会で性犯罪に関する刑法についての議論がされている。その中で、性的行為に対する同意についての議論もおこなわれる予定だ。伊藤さんは「不同意性交が犯罪であるという項目が議論され、私の身に起こったことが、法律でさばかれる世の中がやってくると信じています」と願った。
●高裁判決の要旨
控訴審は、一審と同様、性行為の同意があったかどうかなどの事実関係が主な争点だった。
中山裁判長は、伊藤さんが、記憶を取り戻したあとの事象について、ほぼ一貫して性的被害を受けたことを具体的に供述していること、伊藤さんと山口さんの間にはそれまで性的行為をおこなうことが想定されるような親密な関係は認められないこと、伊藤さんが行為直後から、友人や医師、警察に対して、性的被害を受けたことを繰り返し訴えていることについて、「事実の経緯として合理的かつ自然に説明することができる」などと指摘した。
一方、山口さんの「伊藤さんが性行為に誘う挙動をした」といった供述については、それまで性的行為を行うことが想定されるような親密な関係があったことは認められないこと、伊藤さんが直後から性的被害を受けたことを繰り返し訴え公表していることなどの事実経過と「明らかに乖離する」と指摘。
ホテルに入る時点では、飲酒により強度の酩酊状況にあった伊藤さんが、わずか2時間半程度で、その真意に基づき山口さんを性行為に誘う挙動に至ることができたのかについて「素朴な疑問を解消することができない」とし、「供述を信用することはできない」と述べた。
伊藤さんの供述に基づき、同意がないのに性行為に及んだと結論づけ、治療関係費2万8300円と慰謝料300万円(弁護士費用30万円)を認めた。
●山口さんの反訴についての判断
次に、伊藤さんの性被害公表行為が山口さんに対する名誉毀損やプライバシー侵害として不法行為となるかについて、検討した。
中山裁判長は、デートレイプドラッグの使用に関する公表行為をのぞくものについては、いずれも山口さんの社会的評価を低下させ、プライバシーを明かすものではあるが、「公共の利害に関する事実で、その目的がもっぱら公益を図ることにある」「事実を公表されない法的利益が公表する理由に優越しない」と認定。不法行為は成立しないとした。
伊藤さんの「私は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたんだと思っています」「デートレイプドラッグを入れられた場合に起きる記憶障害や吐き気の症状は、自分の身に起きたことと、驚くほど一致していた」といったデートレイプドラッグに関する記述について、山口さんが性的行為前に、デートレイプドラッグを飲ませたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、真実であるとは認められない上、いかなる具体的な根拠をもって真実だと信じるに至ったかが明らかではないとして真実相当性もないとし、名誉毀損が成立するとした。
また、「私は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたんだと思っています」という内容は、山口さんが伊藤さんを意識不明に陥らせるためにデートレイプドラッグを使用したと主張されていることであると認められ、プライバシーに当たると認定。
公表するにあたっては「相応に慎重な検討が求められていた」とし、山口さんが同意なく性行為をおこなったことが真実であるため、デートレイプドラッグを用いたとの真実でない事実を主張していることが明らかにされると、計画的に性的加害行為に及んだと受け取られるなど、より大きい不利益を被るおそれがあるとし、プライバシー侵害が成立するとした。
その上で、デートレイプドラッグの使用は、加害行為の手段・方法という事実関係の一部にとどまり、その点が公表されたことにより山口さんの社会的評価が低下した程度は「性的加害行為が公表されたことにより山口さんの社会的評価が大きく低下した程度に比較して、大きいとは認められない」とし、慰謝料50万円(弁護士費用5万円)が相当とした。謝罪広告掲載は認めなかった。弁護士ドットコムニュース編集部