美術館はイベントスペースか?クリスチャン・ディオール展
近年、美術館にて開催されるファッションの展覧会が賑やかである。ファッション展はいくつかのタイプに分けることができるが、なかでもファッション・デザイナーの、あるいはファッション・ブランドの展覧会が盛んである。
昨年6~9月にはガリエラ宮パリ市立モード美術館の「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」が三菱一号館美術館に、昨年11~今年1月にはロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館の「マリー・クワント展」がBunkamuraザ・ミュージアムに巡回した。本年9月からはパリのイヴ・サンローラン美術館の協力による「イヴ・サンローラン」展が国立新美術館で予定されている。こうしたなか、パリの装飾美術館にて開催され、ロンドン、上海、ニューヨーク、ドーハを巡回し、昨年12月から東京都現代美術館にて開催されている「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展は、とくにそのスペクタクルな展示手法から大きな話題を集めている。
このタイプの展覧会を鑑賞した際、最近の世の中の動向を踏まえれば、いくつかの批判がすぐに思い浮かぶことだろう。たとえば、本展ではクリスチャン・ディオール本人の作品だけではなく、その後を継いだイヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリらのデザイナーたちの作品までもが展示されている。つまり、これは「デザイナー」クリスチャン・ディオールとしての展覧会というより、「ブランド」クリスチャン・ディオールとしての展覧会なのだといえる。
だが、そこで展示されている作品はDior Femmeすなわち女性の衣装のみに限定されている。2001年秋冬からエディ・スリマンがつとめ、クリス・ヴァン・アッシュ、そして現在のキム・ジョーンズへと至るDior Homme、あるいはそれ以前のDior Monsieurの作品は出展されてない。そこには多くのファッション展も抱える、性の非対称性がある。
ほかにも、作品が女性のみに限定されていると記したが、その女性の美しいとされる身体もまた極めて画一的である。統一されているマネキンがそれを物語る。性の選択肢の多様性以前に、身体の多様性もまた失われている。