【大分県・由布市/別府市】隈研吾による棚田を臨む温泉宿と太宰治の〈碧雲荘〉へ|甲斐みのりの建築半日散歩
東側に雄麗な由布岳、北側は鳥が飛び交うくぬぎ林、南側は朝霧に包まれる谷と自然に囲まれ、寄棟(よせむね)屋根の平屋の離れと客室棟、周囲の自然に馴染むパブリック棟や温泉棟が、ゆったりとしたリズムを刻む棚田を中心に配される〈界 由布院〉。「棚田暦で憩う宿」をコンセプトに、50年ほど前に使われていた棚田の一部を再生して新たなデザインを加え、農村としての原風景を甦らせた。
「上質な農家風の奥座敷」をキーワードに、田園風景や四季の美しさを間近に感じる建築設計を手がけたのは、建築家・隈研吾氏。農家を構成する「たたき」「板間」「座敷」をイメージした内装には、稲や藁など棚田にちなんだ素材や、竹、日田杉、畳表の材料となり国東半島の七島藺(しちとうい)など、大分県の素材がふんだんに使われている。
農家の玄関「たたき」を象徴するのはフロントロビー。その先にある「板間」の空間は竹のフローリングを用いたトラベルライブラリー。縁側を思わせるデッキで座椅子に腰かけて宿の中心にある棚田を一望できるパブリックスペース「棚田テラス」は屋外ながら「座敷」としての機能を果たす。
半個室の食事処は壁の和紙に藁、米、竹、七島藺を漉き込むことで農家らしい趣に。牛肉、猪肉、鹿肉、穴熊肉を地味深いスッポン出汁にくぐらせて味わう「山のももんじ鍋」など、野山の恵みを堪能できる。
星野リゾート・界の各施設では、1泊2日の湯治体験プログラム「うるはし現代湯治」がおもてなしとして用意されている。〈界 由布院〉で行われているのは「温泉いろは」。泉質や成り立ちなど温泉の知識を持つ湯守りが紙芝居を用いて、由布院温泉の歴史や泉質、入浴法や簡単な体操を説明してくれる。
そのあとに楽しみたいのが、正面に由布岳を望み、石材を多様した大浴場での湯浴み。内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにゆったりと寛げる「ぬる湯」と2つの浴槽が。泉質は単純温泉で、化粧品にも使われるメタけい酸を豊富に含み、さっぱりやわらかな肌触り。露天風呂には寝湯があり、流れる風や鳥の声を感じながらのんびりと長湯ができる。