今時の若者は知らない…SMを売り物にした作家・団鬼六が50年前の夏、日本中に与えた『花と蛇』の衝撃
『花と蛇』は、一部のSMマニアばかりでなく、日本社会全体に大反響を呼んだ。その後連載は、断続的に13年も続いた。
『花と蛇』の著者は、花巻京太郎という無名の覆面作家だった。後の団鬼六である。
連載を始めた時、団は30歳。東京・新橋の「国際マーケット街」の一角で、バーを経営していたが、トラブル続きで借金苦に喘いでいた。
団は後年、自伝『蛇のみちは』でこう記している。
〈自分用の猥文を書いたようなものだが、それを破り捨てるのも惜しまれて、大阪の『奇譚クラブ』へ投稿したのである。ただ官能描写の羅列だけで小説としての体裁はなさず、恐らく没にされるだろうと思っていた〉
団はこの連載中に500万円の借金を抱えて、バーを手放す。そして三浦半島の三崎に落ち延びて、中学校の英語代用教員となった。『花と蛇』文庫版の後書きでは、こう綴っている。
〈締切りに追われて遂には教室の机で生徒に自習させてこの自慰小説を書いた事もあった。教室内でどぎついエロ小説を生徒に自習してもらって書くなど、救われない教師になったものだと情けなく感じた事もある〉
『花と蛇』はすぐに映画化され、博多出身の女優・谷ナオミ演じる静子夫人は、センセーションを巻き起こした。以後、現在まで計9回も映画化。主役も麻生かおり、小川美那子、長坂しほり、杉本彩、小向美奈子、濱田のり子と、多彩な面々が演じた。