父に食べさせられた床のゴミ テーマは毒親、虐待経験者の作品展
「毒親」は米ジャーナリストのスーザン・フォワード氏の造語とされ、継続的な暴言や暴力、過干渉など子に悪影響を及ぼす保護者を指す言葉としてSNSなどで広まった。
アートフェスを企画する熊本市のウェブデザイナー、浅色(あさいろ)さん(36)=仮名=も「僕の父は毒親だった」と話す。
浅色さんは熊本県水俣市で生まれ育ったが、幼少期から父親に「食わせてもらっているくせに」などと言われ、殴る蹴るの暴行も受けた。だが母親らが助けることはほぼなく、18歳で名古屋市のデザイン専門学校に進学して家を出るまで被害は続いた。
父親とは関係を絶ち、15年以上会っていないが、約5年前にネットで初めて「毒親」の言葉を知り、同様の経験を持つ人のため何かできないかと考えるようになった。
自身の経験から「毒親」の下で過ごすと「心の傷が残り、人間関係をうまく作れないなどの影響が出ることもある」と感じ、当事者がアートで思いを表現できる場を作ろうと、SNSを通じて作品を募集。すると約30点の作品が集まり、2018年に初の展示会を名古屋市で開いた。
作品は、床のゴミを父親に食べさせられた様子や、暴行を続けた母親を口が裂けた妖怪のように描くなど苦しみの深さを訴えており、19年以降も熊本市などで展示。来場者には「自分たちも親から同じような目に遭った」と涙ながらに訴える高齢夫婦もいたという。
全国的に虐待に対する意識が高まったことで、児童相談所を通じて保護される子どもは増えているが、「新型コロナウイルスによる外出自粛で在宅時間が増え、被害が潜在化している可能性もある」(熊本県)との指摘もある。浅色さんは「毒親」の影響で心の傷が深く残る人は相当数いると見ており「『親は子を大切にするもの』との考えはいまだに根強く、虐待を受けていると気付けない人も多い。人に認められて初めて傷が癒やされることもあるので、展示会が心の傷を抱える人たちの居場所になれば」と話している。
11月8~13日には熊本市の県立美術館分館で展示会を開催。23年度は東京や関西でも開く方針で、以下のCFサイト(https://readyfor.jp/projects/94232)で運営費を募っている。