チャットGPTが変えるキャンパス 大学教授の不安と期待
■進化し続けるAI
大和大学アリーナで15日に開かれたシンポジウムは講演とパネルディスカッションの2部構成。大和大学社会学部と情報学部が主催、産経新聞社などが後援して開かれ、学生や一般市民ら約千人が参加した。
AIとは、人間の知能をコンピューターによって再現する技術。例えば、ロボット掃除機に代表される物体認識、顔認証技術の画像認識、声や言葉の内容を認識する音声認識、人間とAIがコミュニケーションするチャットボットがあげられる。チャットGPTは、米IT企業「オープンAI」のチャットサービスだ。
シンポジウムでは、チャットGPTの機能の一例として、論文の検索や要約が簡単にできることが紹介された。数多くの論文の中から必要な論文を探し出し、かつ要約させることも瞬時にできる。
学生たちがリポートや論文を書くときにも便利に使えるが、安易な剽窃(ひょうせつ)(コピー&ペースト)ができてしまうという問題もある。出席した教員からは、学生の出したレポートを適切に評価できるかといった課題も指摘されていた。
■「自我持つAI難しい」
「AI時代の挑戦状」と題して講演した情報学部の松田雄馬特任教授は、「チャットGPTはデータに基づき答えてくれるものだが、使った人間が賢くなることにはつながらない」と指摘。知りたいと思うデータを求めるためにも「きちんとした条件を示さないとうまく答えられないのがAI」と述べた。
1968(昭和43)年に公開された映画「2001年宇宙の旅」。宇宙船の人工知能「HAL」が自ら感情を持つようになり、HALを抑制しようとする人間に対抗し、窮地に陥れる場面が描かれた。2001年はとうに過ぎ、現在でもAIは人間のコントロール下にあるが、果たしてAIが人間を支配する時代が来るのか。
松田氏は「研究者として、自我を持つAI(の開発)は非常に難しい」と指摘。AIと人間の違いは「AIは自分の失敗に気づかず、自己認識を持たず感情がない」点と語った。
パネルディスカッションでは、チャットGPTも議論に加わり、〝意見〟を述べる場面も。司会を務めた社会学部の佐々木正明教授(51)は「チャットGPTはアップルの『iPhone』以来の技術革新」と評価した。
■兄弟で初仕事
佐々木氏が司会進行する中、パネリストの一人として登壇したのが元埼玉県警捜査1課の刑事、佐々木成三(なるみ)氏(46)。
2人は実の兄弟。正明氏は産経新聞モスクワ支局長などを経て大学教授となり、学生に講義を行う傍ら、ロシアによるウクライナ侵略後はテレビのコメンテーターとして出演。成三氏も事件解説のため、コメンテーターや講演活動などを行っている。2人がそろって仕事をするのは初めてという。
ネット上を舞台にした詐欺事件など、新しいテクノロジーが犯罪に使われることも少なくない。成三氏は元刑事の視点から「チャットGPTを使う犯罪者が必ず出てくる」と強調。そのうえで「どんな防犯対策がとれるか考えないといけない」と述べ、専門家同士でチャットGPTを活用した防犯対策を検討していく考えを示した。
会場の参加者からは「自ら思考する自我AIが出てきて人間が支配されるか心配だ」(情報学部1年の男子学生)や「要はAIを人間が便利なツールとしてうまく利用すればいいということか」(高齢男性)といった声があがっていた。
松田氏は「AIが自我を持つことはできない。何をやるかを決め、AIに仕事をさせるのは人間だ。そのためにも人間や社会のことを学ぶ必要がある」と話していた。(勝田康三)