ルー・リード本人の秘蔵コレクションで、その軌跡をたどる回顧展| 吉田実香のNY通信
NYのアイコン的人物は? と聞かれて、誰を思い浮かべるだろう。ミュージシャンのルー・リードはまさしくその1人。逝去から早くも9年を経た今、彼の全キャリアを追体験できる展覧会『Lou Reed: Caught Between the Twisted Stars』が話題となっている。
舞台となる〈パフォーミングアーツ館〉の位置する場所は、アッパー・ウェストサイドの〈リンカーン・センター・プラザ〉。目の前には文化の殿堂〈リンカーン・センター〉、そして隣には〈メトロポリタン・オペラハウス〉。荒削りで猥雑なダウンタウン文化の顔であるルーの展覧会が、NYで最も高尚なロケーションで? ……と一見意外に思えるが、実はこの施設、演劇・映画・音楽・ダンスなどのパフォーミングアーツに特化したリサーチ・ライブラリー。〈ニューヨーク公共図書館〉が所蔵する膨大な資料を誰でも閲覧できるだけではなく、202席のオーディトリアムも備え、ライブや映画上映、講演会などを通じて市民への文化発信に寄与する場だ。
この展覧会では、音源や映像・写真はもちろん、愛用したギターの数々や機材、レコードコレクションや手紙、手書きの歌詞など、数々の貴重なアイテムに出会うことができる。
入り口ではさっそくルーの顔が出迎える。
扉が開くと、ヴェルヴェッツことご存じ〈ヴェルヴェット・アンダーグラウンド〉のセクションが現れる。ルーが前衛音楽の作曲家ジョン・ケイルや大学仲間のスターリング・モリソン達とこのバンドを結成したのは、1965年の夏のこと。彼らの演奏をカフェで聴いた映像作家バーバラ・ルービンは、芸術家仲間を次々ライブに誘う。その中にやはり映像作家のポール・モリセイ、そしてアンディ・ウォーホルがいた。
ルーはかつてこう語っている。「俺たちはグリニッジ・ヴィレッジにある観光客向けの店で箱バンをやっていた。ある晩、店のマネージャーに『またそういう(前衛的でアングラな)曲を演ったら今度こそクビだからね』と言い渡された俺たちは、当然そういう曲を演奏した。そして即刻クビになった。ウォーホルが観に来たのはちょうどその日だったね」
ウォーホルとポール・モリセイは、ヴェルヴェッツのバンドマネージャーになる。ドイツ出身の女優ニコをバンドに入れたのも、この2人。ウォーホルはデビューアルバムのプロデュースを務め、かくしてヴェルヴェッツはNYアートシーンの中心的存在となっていくのである。