リンゴやサボテンから合成皮革 環境にやさしい「ビーガンレザー」
適度な光沢感があり、表面が滑らか。触り心地はやわらかく、軽い。リンゴを素材の一部に使用した「アップルレザー」は最近話題の合成皮革だ。
令和2年からアップルレザーを日本で扱う、皮革・革製品の製造販売会社「ニチモウ」(東京都足立区)によると、リンゴの芯や種などまで余さず使う、食品ロス問題の解決に一役買う新素材だ。
作り方は、廃棄予定のリンゴやジュースの搾りかすなどをまず粉にし、さらに細かい繊維状に。それに木材を粒子にしたものを混ぜて糸に撚(よ)り、合皮の基礎となる布を織る。革に近い質感を再現するため、布に塗布する樹脂にもリンゴ由来の素材を混ぜ合わせる。原材料の約33%がリンゴ由来。木材も合わせると約66%が植物由来だ。
理論上、土に埋めると半分以上が土にかえるという。品質にもこだわっており、強度は石油由来の合皮と同等で、触り心地も従来の合皮に劣らない。
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皮革に代わる新素材の開発を後押しするのは環境保護や動物愛護への意識の高まりだ。ファッション界では、レザー(本革)、ファー(毛皮)などを使わない「アニマルフリー」の取り組みが広がり、環境を意識した新素材の開発も進む。ニチモウが扱うアップルレザーは、サステナビリティー(持続可能性)をうたって展開する大手アパレル企業の商品にも採用され、累計約1万メートルを販売したという。「展示会では多くの会社がアップルレザーのブースに集まり、関心の高まりを非常に感じる」(同社担当者)と手応えを話す。
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ミシン糸を製造、販売する「永井撚糸」(大阪市西区)はサボテンの粉末を使用した合皮「デザート」を3年から販売している。
サボテンは少量の水で育てることができ、デザート向けのサボテン農場では年間約8100トンの二酸化炭素を吸収する。強度や手触りは従来の合皮と変わらないが製造原価がかかるため、バッグなどの製品価格は本革を使ったものと同程度になるという。
同社でデザートを担当する柏木功さん(53)は「植物性の合皮の市場は今後、成長していくと世界的に言われている。従来の合皮に比べれば(価格はまだ)高いが、消費者の環境意識が高まれば受け入れられていくのではないか」と展望する。
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こうした植物由来の合皮は、完全菜食主義者を意味する「ビーガン」とレザーを組み合わせ、「ビーガンレザー」と呼ばれている。動物由来の素材を使わない、人工の皮革という意味になる。
環境負荷の低減など、社会課題の解決につながるものを選んで買う「エシカル(倫理的)消費」に詳しい日本女子大の細川幸一教授(60)は「動物のものを使わない、という意味では石油由来の合皮も昔から(同様に)ある」と指摘しつつ、「ビーガンレザーには、さらに『環境にやさしい』という意味(付加価値)があるのではないか」と分析する。
ただ、どのようなものを「ビーガンレザー」とするのか、定義はまだ定まらない。細川教授は「国や産業界などで認証制度を設ける必要がある」と話した。