「皆で考えた末の形」 国際芸術祭「あいち2022」閉幕
今回の芸術祭には国内外から100組のアーティストが参加したが、荒川修作や河原温、岸本清子といった愛知出身の物故作家に焦点を当てたのが特色の一つだった。
メイン会場の愛知県美術館に入館して最初の展示室を占領したのは、ニューヨークを拠点に活動した河原温(1932~2014年)が打ち続けた電報の数々だ。宛先こそ違うが、文面は一様に同じ文「I AM STILL ALIVE(私はまだ生きている)」が印刷されている。
新型コロナウイルス禍に始まり、ロシアのウクライナ侵攻が続く中、芸術監督を務めた片岡真実・森美術館館長は、生存を発信し続けた河原から着想を得て、テーマに「STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」を掲げた。
河原作品のコンセプトは理解できるが、あえて言えば、世界の「今」を意識させられるよりも、「昔」の作家としての印象しか抱けなかった。
一方で、目を見張る映像作品は少なくなかった。フランス出身のカデール・アティアさんの幻肢痛をテーマにした「記憶を映して」は多くのことを考えさせられた。
幻肢痛とは、事故や病気のために手足を失った人が、存在しないはずの手足の痛みを感じる症状で、多くの人々が抱えるトラウマを連想させる。
虐殺や差別はその当事者だけでなく、直接体験していない人々にすら精神的な痛みをもたらすのかもしれない。
キュレーターを担当した中村史子・愛知県美術館学芸員は「『あいちトリエンナーレ』から名称を変え、新しい芸術祭として始まった『あいち2022』。今現在、どのような芸術祭が可能なのか、そして理想なのか、皆で考えた末にこの形となった。自らの過去を顧みることと、新しく出発することは決して矛盾しない」と指摘する。
美術館を飛び出し、街中の廃校や店舗を展示空間に活用することも都市の芸術祭ならではの魅力だ。繊維の街・一宮市会場が楽しめた。8日時点の速報値によると、入場者数は舞台芸術の公演もあった主会場・愛知芸術文化センター(約17万1000人)に次ぐ約12万1000人を記録した。赤い糸で旧織物工場を空間展示した塩田千春さんや、特徴的な子どもの絵で知られる奈良美智さんによるところが大きい。
愛知の芸術祭は「あいちトリエンナーレ」の名で10年に始まった。3年に1度開催され今回で5回目。前回の展示が事件や訴訟に発展したことから、名称を変更した。
愛知では11月、アニメの世界が体験できるジブリパークが開園する。ベクトルは「アート」から「アニメ」へ。3年後の国際芸術祭「あいち2025」の行方が心配で仕方ない。【山田泰生】