北海道東川町に、隈研吾が手がけるサテライトオフィス〈KAGUの家〉が誕生。
北海道上川郡東川町。この小さな町の名を知る人は少なくない。日本全国から移住者が増え続ける町として、錚々たる写真家が名を連ねる写真賞「東川賞」を授与する写真の町として、大雪山国立公園の麓に広がるウインタースポーツの拠点として、あるいは家具の町として……。決して大きな町ではないが、多くの魅力で人々を惹きつけてきた。そんな町で今、新しい動きが始まろうとしている。2022年6月に開催された『あさひかわデザインウィーク』に先駆け、建築家の隈研吾が設計したサテライトオフィス〈KAGUの家〉が運用を始めた。
同町の産業活性化や新しい産業の創出を目指す〈KAGUの家〉は、木造2階建て4棟からなる施設。東川町は、アフターコロナの社会における、新たなワーク・ライフ・バランスのモデル空間を提示し、都市部との連携、地域資源の利用拡大、町内経済の活性化を図るために整備を行ったという。4棟には4社が入居し、そのうちの1棟には、現在、同町でデザインミュージアムの建設計画を進める〈隈研吾建築都市設計事務所〉が入居する。
隈が東川町をはじめて訪れたのは、2020年2月。コロナ禍のなかで、改めて東京に一極集中することの難しさを感じつつ〈KAGUの家〉は形作られていった。都心を離れ、心豊かに働くこれからの場のあり方とは……それは隈自身の私的な思いも込めて設計された空間といっていい。
隈は大小30社近い家具メーカーや北海道産木材の加工メーカーが拠点を構えるという東川町の背景から、建物には北海道産のトドマツとカラマツを採用。外壁の羽目板には、東川町産の木材を用いている。冬には厳しい寒さを迎える地域ながら、中心に大きな吹き抜けをもつ開放的な空間とし、床暖房とエアコンによる空気循環で十分な温熱環境を整えた。柱や梁といったトドマツ材による構造は化粧せず、柱間に机や棚といった造作で補強する。オフィスとしての機能、十数名での使用を想定した規模感に目配せしつつ、アイランドキッチン、ソファ、暖炉など、アットホームな心地よさをもつ空間を目指した。現在は広場や遊歩道も整備され、北海道美唄市出身の彫刻家である安田侃の彫刻《天秘》も設置する。