子どもたちに届け 中村哲医師の信念伝える児童書やアニメ続々
「中村先生のやったことは偉業だけれど、『遠い存在の偉大な人』とは思ってほしくない。先生の思いそのままを、手のひらに乗せて子供たちにそっと差し出す気持ちでつくりました」
7月に発刊された児童書「大地をうるおし平和につくした医師 中村哲物語」(汐文社)の著者、松島恵利子さん(58)=神奈川県=はそう語る。中村さんの生涯を、昆虫に夢中になった幼少期のエピソードから、アフガニスタンでの医療活動、全長25キロの「マルワリード(真珠の水)用水路」を建設して砂漠を農地に変えたことまで、子供にも分かるようにまとめた。
松島さんは脚本家として、アニメ「ちびまる子ちゃん」を長年担当している。中村さんとは面識がなかったが、執筆にあたって中村さんの著書やペシャワール会報、講演会記録などを丹念に読み込んだ。
伝えたかったのは「弱いものは進んでかばえ。どんな小さな命も尊い」という祖母の教えを実践した中村さんの生き方だった。「中村先生の信念はシンプルで、どの時代、どの地域にでも当てはまる。中村先生を知ることで、子供たちが『自分はどう生きるのか』を考えるきっかけにしてほしい」。松島さんは作品に込めた思いをそう語る。
4月にはアニメで中村さんの生涯を紹介する「世のため人のためアニメシリーズ 中村哲物語」(公益財団法人「藤井財団」制作)がYouTubeなどで公開された。また今夏には、この他にも中村さんの伝記や学習漫画の出版が予定されている。
ペシャワール会でも、中村さんが残した著作物を改めて振り返り、平和に言及した言葉を会報や講演などで紹介している。村上優会長は「戦争の映像が日常的に流れる今だからこそ、中村哲の『弱い人を助け、助けられ』という生き方が求められていると感じる」と話し、7月に発刊された児童書について、「中村哲が積み重ねてきた生き方を具体的に伝えている作品。読んだ子供たちが、どういう大人になりたいかを考えるきっかけになってほしい」と願う。【山口桂子】