“飾らない” 装飾性が魅力。〈シハラ〉の新たな旗艦店。
2010年に石原勇太が設立したジュエリーブランド〈シハラ〉。形状と構造を一体化させたそのジュエリーは、ピアスやネックレスに不可欠な留め具を取り払ったミニマルなデザインで知られる。人の身を飾る装身具でありながら装飾性を削ぎ落とした非装飾的なジュエリーという、二律背反ともいうべき魅力を持つ。
北青山にオープンした旗艦店は、これまですべての直営店を手がけてきたマウントフジアーキテクツスタジオ/原田真宏+原田麻魚によるもの。彼らが以前に設計した建物の1階に位置し、中庭と同じ床材が連続することで内外の境界を曖昧にする。雑然とした通りから中庭に足を踏み入れると一転して静かな場に切り替わり、石原は「神社における鳥居のように世界が切り替わるのを感じた」と話す。
店内中央に高透過ガラスで組んだ什器を置き、ジュエリーを宙に浮かぶように展示。またそれらを囲むように配した家具は石原のデザインによるものだ。彼がデザインするジュエリーのように幾何学的なフレームを持つ家具は多様に板が張られ、置き方によって椅子、テーブル、ベンチなどに姿を変える。「ベルベットの上にジュエリーを置くジュエラーとは違う、シハラの世界観を体感してもらう空間にしたかった」と石原は語る。
またオープンとともに、プロダクトデザイナーのマイケル・アナスタシアデスとの共作ライン〈マイケル・アナスタシアデス+シハラ〉を始動。二人は思考や哲学を共有することから親しくなり、自ずと共作に至った。今回発表する〈コンストラクション・ライン〉は、シチリア島の教会に着想を得たとアナスタシアデス。
「そこで見た燭台は、異なる長さの金属棒をチェーンのように組み合わせた仕組みを採用していました。それを参照しながらジュエリーを表現したいと思ったのです。その姿は、建築の製図に使われるコンストラクションライン(一点鎖線の作図線)を思い起こさせるものでもありました」
石原はプロジェクトを始めるにあたり、それまでジュエリーを身につけていなかったアナスタシアデスにプレゼントを贈ったという。
「身につけることの違和感が、身につけないことの違和感へと変わっていく。そして身につけることで些細な仕草が少し変化する。そんなパーソナルな楽しみを感じてもらえているようです」と石原。
飾り立てるのではなく、内面に響くジュエリー。その内省的な世界が空間に立ち上がった。