「吉村弘 風景の音 音の風景」展(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)レポート。環境音楽のパイオニアは、どのように音と向き合っていたのか?
ブライアン・イーノが提唱した「アンビエント・ミュージック」。「環境音楽」として、国内ではじめて発表されたのが、吉村が1982年に発表した先述のアルバムだ(*)。だが、なぜいま吉村弘の回顧展なのか。長門は開催の経緯と見どころについて、以下のように話した。
「コロナ禍になってから環境音楽へ注目が高まり、さらにレコードの売り上げも急増している。今年は葉山館の開館と吉村の逝去から20年の節目ということもあり、回顧展によいタイミングだと考えた。吉村は建築や都市と音の関係を初めて意識して制作した音楽家。音源化されている作品に限定されない、吉村の多岐にわたる活動を知るきっかけとなってほしい」。
「Ⅰ 音と出会う――初期」では、キャリア初期のコンクリート・ポエトリーや楽譜、写真などを公開。エリック・サティやジョン・ケージ、一柳慧らの楽譜や吉村による楽譜の写し、創作グループ「麗会」や「タージ・マハル旅行団」での制作物が展示されている。吉村が音楽に興味を持ったきっかけは「家具の音楽」で知られるエリック・サティ。高校在学中、サティの楽譜に魅せられて音楽を志したという。
こうして著名な音楽家の名前ばかりを並べると、あたかも吉村がお堅い音楽家のように思えるが、決してそんなことはない。楽譜のなかには童謡もあるし、展示されている制作物はどれもじっくり見たくなる魅力と愉快さがある。