作家デイヴィッド・ピース:占領下の日本で起こった歴史ミステリー「東京3部作」が完結
東京在住で英国出身の作家デイヴィッド・ピース氏は、『TOKYO REDUX 下山迷宮』を2021年8月に刊行した。これにより戦後、米国占領下の東京を舞台に、実際に起きた犯罪事件を通して日本社会を描いた、東京3部作がついに完結した。本シリーズの執筆のきっかけや犯罪小説が果たす社会的役割についてピース氏に話を聞いた。
1949年7月、国鉄総裁下山定則が常磐線北千住~綾瀬間の線路脇で、轢(れき)死体となって発見された。自殺か他殺か不明のまま捜査は打ち切られ、1964年に時効を迎えた。亡くなる前日、下山は10万人規模の大量解雇計画を発表していた。この解雇計画はGHQ(連合国軍総司令部)の方針で、労働組合や共産党の影響力を抑制しようという意向が強く働いていた。
最新作『TOKYO REDUX 下山迷宮』でピース氏は下山事件の謎に迫る。
「下山事件は謎多き事件という点で、ケネディ大統領暗殺事件とよく似ています。当初、下山定則は解雇に反発する労働組合員か共産主義者、あるいは極左思想者によって殺されたと考えられていましたが、日米両政府は労働組合や共産主義者を弾圧する口実に事件を利用しました」とピース氏は語る。
決定的な証拠がなく、明らかな容疑者もいない。下山の死に対して、諸説飛び交った下山事件は、ノンフィクション作品のテーマになり、小説や映画、漫画でも取り上げられた。中でも作家・松本清張が1960年に発表したノンフィクション『日本の黒い霧』が代表例だとピース氏は指摘する。この作品により、下山は米国と日本の右翼の陰謀により殺されたという説が広まった。
『TOKYO REDUX 下山迷宮』は東京3部作の3作目となる。三部作すべてが戦後の米国占領下時代の実在の事件を基にしている。
1作目『TOKYO YEAR ZERO』は小平義雄による連続婦女暴行殺人事件をモチーフに、2作目『占領都市 TOKYO YEAR ZERO ll OCCUPIED CITY』は、帝国銀行の社員が青酸化合物を飲まされ毒殺された帝銀事件が題材となっている。